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評者◆凪一木
その119 ビル管はシステムの奴隷か
No.3520 ・ 2021年11月20日




■『女は世界の奴隷か!』という歌がある。ジョン・レノンが一九七二年に発表した。女性運動に関して歌った最初とも言われている。
 「ビル管はシステムの奴隷か」と問いたくなる場面は、実はしょっちゅうだ。会社から軽く扱われ、元請けからは相手にされず、その上のオーナーからは存在すら知られていない。同じビル内で顔を合わせているのに、自社の名称(T工業)を言ったら、「なんだ、その名前は。そんな会社は知らんよ」と内線電話を切られた。
 そんな中、T工業から、「QMS・HMS・PMS確認度テスト」というものが郵送されてくる。「QMS」とは、品質マネジメントシステムのことであり、「HMS」とは、労働衛生マネジメントシステム、「PMS」とは、個人情報保護マネジメントシステムを指す。その理解度を確認するというものだ。期限日までに返送しなければならない。○×式で、一〇問のうち八問が合格点らしい。
 先日、これも会社の命令で、防災センター要員と自衛消防の再講習を受けてきた。このときも全体の六割を正答しなければダメだという試験があった。墨田区本所消防署の部屋に一〇七名を押し込め(欠席者あり)、どう見ても三密であり、身体をくっつけ合っての講習であった。この金額が二万一〇〇〇円と高い上に、一〇七名をベルトコンベアで運ぶが如くに、講習者を雑に扱う。芋洗い状態のビル管は、ただただ金を払わされる仕組みになっている。
 T工業に入社するときに、健康診断で一万円以上払わされた。私の場合、持病(胃がんで胃を全摘)のため定期的に血液検査を行っているので、そのコピーを持っていっても、なお必要と言われて、さらに六〇〇〇円ほど払って、血液検査をした。しかし全く提出を求めてこない。したがって、そのままにした。お金が無駄になったとしか言いようがない。それどころか、違法だと直訴し、私がユニオンを通して改善させてはいるのだが、この夜勤の仕事では、健康診断を年に二度以上受けさせなければいけない。どこの会社でもやっている。それを年に一度しか受けさせず、しかも上限は七〇〇〇円でそれ以上は自腹であった。もっと言うと、年に一度も受けなくともフリーパス状態ですらあった。私の抗議によって、年に二回、会社の負担上限が合わせて一万九〇〇〇円となっている、どういう基準によるのか不明ではあり、しかもまず自腹で払ってあとで清算する。
 防災センター要員に話を戻す。二万一〇〇〇円がどういう仕組みなのか、よく分からない。実は初回は三万五二〇〇円払う。自衛消防業務新規講習(科目免除受講者)の方は三万三一〇〇円である。自衛消防は、二五〇〇円の受験料を払って試験を受ける。私の現場でも沖縄空手の責任者など、何人か落ちて自腹で再受験している。同じ部屋の警備では、何度も落ちて受験を諦めた人が数人いる。金もかかるが、金の前にさらに時間も精神も奪われる。
 私が受けてきたのは、「防災センター要員講習(実務講習)および自衛消防業務再講習」である、東京都と全国との二種類が、なぜ同時に同じ場所で行われるのか分からない。防災センター要員の方は(一般社団法人)東京防災設備保守協会、自衛消防の方が(一般社団法人)日本消防設備安全センターによるものだ。保守協会は従業員数五五名、安全センターは八〇名とある。貸借対照表がネット上にアップされている前者はお金の流れがよく分からない。後者の売上は二〇億円。
 栃木県さくら地区交通安全協会の職員が八三〇万円着服(二〇〇八年)、福岡県筑紫交通安全協会の女性職員が、約一六〇〇万円を着服(二〇一〇年)など、その不明な使途が叩かれた警察の天下り機関と言われる交通安全協会のように、東京消防庁の天下り機関であろうか。
 警備会社はもちろんだが、ビルメンテナンスの会社もまた、警察の天下り会社がいくつかあると言われている。私もそのうちの一つで面接を受けたが、とてつもなくデカい態度で私の学校(職業訓練高年齢者校)にやってきて、結局一人の採用もしなかった。これは、どういうことであろうか。予想はつく。
 マーシーは、これとは別の警察天下りとみられるビルメン会社の圧迫面接を受ける。この話は何度聴かされても痛快だ。面接官三人のうちの一人は、横を向いたままで、こちら(マーシー)を見ない。真ん中の最も横柄な男は「何しにやってきた?」「パワハラには強い方か?」「そういう態度で面接に臨むとはどういうことだ」「もっとはっきり答えろ。そんな受け答えならどこの面接に行っても採用されないぞ」。
 断っておくが、マーシーはビル管の中では最も折り目正しく真面目な部類で、臆病すぎる元証券マンである。
 さて、講習である。どうしようもなく出鱈目で、何を言っているのか内容の分からないオヤジ(講師)もいて、こいつに質問をしても絶対に、さらに訳の分からない回答をしてくるに決まっているので、適当に合わせて皆、それっぽい演技をしながら、時間を潰す。
 ある講師(保守協会の男)は、「超高層ビルでは自力避難しかない。良い方法がないんですよ」「皆さんはプロの消防隊ではないので、危ないと思ったら逃げて下さい」「訓練一〇〇回やっても本番一回で全部忘れます。動けない。実際のときは何もできない。そんなもんですよ」「(ビル内の)社員にしたって入れ替わり立ち代わり、計画なんてあって無いようなものです」。正直で面白いが、まるでボイラ協会の試験官の如くに、頼りない無責任オジサンなのだ。
 全員が合格した。だが、私は、一〇問中実は七問目の時点で四問不正解であり、あとの三問を冷や汗タラタラで正答した。本当に皆、六割も正答しているのであろうか。
 問題があまりにも当たり前すぎて、小学生に出すようであり、かつどこかおかしく、整合性に欠け、少し疑問を呈すると間違えてしまう。つまり問題自体に誤りがあったり、不備と言えるもので、本気なら正答六割は難しい。ちょっとしたケース・バイ・ケースを思いつくと、答えようがなくなる。
 小学生の道徳の教科書で、「老人が前にいて子どもは席を譲るか」という命題に似ている。『気くばりのすすめ』(講談社)というベストセラー本を出したNHKアナウンサー鈴木健二の「気くばり」が、あまりにも的外れだったのに似ている。NHKのクイズ番組では、「さあ書きなさい」と命令口調で、大みそかの「紅白歌合戦」では、都はるみ事件を起こしている。
 実は私も、逆の事件を起こしそうである。
(建築物管理)







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