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評者◆秋竜山
図鑑の雀を見ながら一句、の巻
No.3497 ・ 2021年05月29日




■バブルで日本中が狂っているように沸いたちょっと前。昔風の小さな家がつづらおりのせまい道に軒をならべていた。区画整理とかが始まる前である。その整理のために消える運命にある小さな一軒の飲み屋。「ちょっと入るのを間違えたのではないか」と、一瞬思えた。薄暗い店内。老夫婦と、若い娘一人。酒が運ばれた。「まるで、雀のお宿のようだね」。これが第一印象であったところから、「雀のお宿」と勝手に呼ぶようになった。昔話の「雀のお宿」である。その呼び名が気にいったのか仲間と思い出したかのように時折り出かけた。
 復本一郎監修『俳句の鳥・虫図鑑――季語になる折々の鳥と虫204種』(成美堂出版、本体一五〇〇円)では、前回は俳句のためにうまれたような鳥として「ホトトギス」だったが、それに続く鳥として、雀ということになるだろう。
 〈古く「すずめ」は小鳥の総称であったらしい。スズメは、奈良時代から「すずめ」あるいは「すずみ」として知られていた。平安時代にはスズメの雛を飼うことが行われており、「源氏物語」や「枕草子」に記述が見られる。スズメの語源については、鳴き声を「シュシュ」と聞き、多数が集まることを意味する「め(群)」に由来するという説や、「ささ(小さい)」と「め(群れる鳥)」からという説などがある。〉(本書より)
 〈初雀はつすずめ、元日の雀をいう(略)
〈ゆりあぐるみどり児のあり初雀―長谷川かな女〉
〈臥す母の前に髪梳く初雀―野沢節子〉
 稲雀いなすずめ、稲の実った田に飛んできて食い荒らす雀を稲雀と呼んで、秋の季語としている。
〈稲雀稲を追はれて唐秬へ―正岡子規〉
〈群の軸どこへも曲げて稲雀―百合山羽公〉
〈稲雀散ってかたまる海の上―森澄雄〉
 寒雀かんすずめ(ふくら雀、凍雀)―羽毛をふくらませているのを「ふくら雀」ともいう。
〈寒雀身を細うして闘へり―前田普羅〉
〈寒雀顔見知るまで親しみぬ―富安風生〉
〈わが天使なりやおののく寒雀―西東三鬼〉
〈天餌足りて胸づくろひの寒雀―中村草田男〉(本書より)
 「雀のお宿」と呼ぶような飲み屋は今ではどこにもないだろう。あの頃のそのあたりを見当をつけて歩いてみたが、見つけることはできなかった。「当然だろう」という気持は強くあり、ナットクもできる。そのあたりはデパートになっている。あの薄暗いつづらおりの道はともかく、薄暗い歩道そのものが町から消えた。雀に関する俳句も数え切れないほど残されているだろう。と、いうことは過去の雀のことばかりである。そして、今、雀を俳句にしたらどのようなものになるのか。昔の雀と今の雀との違いはあるのだろうか。「そういえば最近雀を見かけなくなったね」と、雀の存在を思い出したかのようにしていいあった。雀がいないということは雀の俳句もうまれないことになるだろうか。図鑑の雀を見ながら「一句」と、いうのも、そんな時代か。それとも、いる所には雀もいるだろうか……。







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