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評者◆志村有弘
真弓創の梟雄松永久秀に対する父娘の苦心を描く歴史時代小説(「茶話歴談」)――難波田節子の女子中学生の心の陰影を綴る作品(「季刊遠近」)
No.3396 ・ 2019年04月20日




■歴史時代小説では、真弓創の「骨喰と龍王」(「茶話歴談」創刊号)に感動。大友宗麟に取り入るべく、大友家の宝刀骨喰を松永久秀から貰い受けようと苦心する毛利鎮実とその娘。後半登場の大内輝弘も作品に厚み。妖怪の化身かと映る久秀の凄まじい権勢。三好長慶の生きているかのような人形を造って政治に利用していた久秀。運命を決する将棋の勝負。鎮実親子を騙した輝弘のめくらまし。緻密な作品構成が見事。緊迫する展開の中で登場人物が明るく見えるのは作者の人柄の反映か。
 同じく「茶話歴談」掲載の天河発の「愛怨輝炎」は、『本朝法華験記』など諸書に伝わる安珍清姫伝説(道成寺縁起)に取材したもの。清姫の母が白蛇で、亡母が姫に取り憑いているとする着想が面白い。道成寺関係の略縁起等にも、母が白蛇であったと記す記録は存在しないと思われ、また、安珍に接する清姫の言動にも作者の創作が相当に加えられている。なお、同誌巻頭の真弓の作品と異色のストーリーということで天河の作品を取り上げたが、他の戦国期や幕末を舞台とする作品いずれもが秀作・佳作。
 たかやひろの「越前松平転封」(「港の灯」第11号)は、松平直明の明石転封を舞台に二人の武士の姿を描く。三十郎は妹小夜を寅之助に託すことと武士の意地で命を落とし、寅之助は脱藩する。背後にある家老の策謀。江戸の下町に明るく生きる寅之助と小夜の姿が救いだ。文章もうまい。
 現代小説では、難波田節子の「驟雨」(「季刊遠近」第69号)が、高校受験を控えた女子中学生の心裡を描いた力作。「私」は早くに母を亡くし、父と二人で暮らしてきたが、父の転勤で東京の中学校に転校した。引っ越してすぐに義母が来た。「私」は幼いときから、伯父の再婚相手の連れ子洋介への思いを抱き続けていた。中学生の「私」が大人に接する処世術を身につけていることに、とまどいを感じないでもないが、ともあれ、巧みな表現は難波田ならではの名人芸。
 源つぐみの「方位磁石」(「函館文学学校作品2019」)は、加代子の伯父(母の姉の夫)に対する恋情を綴る。伯父は、加代子と姉弟のように育った達也の父。かつて加代子は、伯父に自分の恋心を告白したが、拒絶された。歳月が流れ、伯父が死去し、葬儀に行けなかった母の代理もあり、加代子が悔やみに出かけた。達也から方位磁石のキーホルダーが入った加代子宛の封筒を手渡された。以前、伯父に方位磁石が欲しいと願ったとき、仕事で使うから、と断られたことがあった。今、加代子は四十四歳。結婚しようと思う男がおり、「針路、絶対に間違いないと思うよ」と伯父の遺影に合掌する。伯父は針路を間違えるな、と訓す意味で方位磁石のキーホルダーを残していったわけではあるまいが、優れた構想力を感じさせる作品だ。
 吉永和生の「静かなるの向こう側」(「海峡」第41号)は、家庭小説。吝嗇で奪衣婆と渾名されていた政子婆さんが死んだ。死ぬ頃は誰も寄りつかなかったのに、あとで捨て猫を育てていたなど、意外な一面も。取り壊される予定の婆さんの家は残されることになり、猫は孫が家に連れていった。家族は、「奪衣婆」という呼び名を「政子おばあちゃん」に格上げし、その仏壇を拝んでいる。文学世界では、こうした心温まる作品も大切だ。
 エッセーでは、上野英信特集を組む「脈」(第100号)が、松本輝夫や比嘉加津夫らの上野論を収録していて貴重。私には〈筑豊の上野英信〉という印象が強いのだが、上野朱が優しさ溢れる文章で「父の心とペンは沖縄によって解放された、と思う」・「父よ、喜ぶがよい。あなたの大切な沖縄の友は、今日もあの日のままの姿だ」と綴る言葉に感動を覚える。
 短歌では、井上美地の後鳥羽院の歌や置文、史跡を踏まえた「置文――後鳥羽院懐旧(一)」(「綱手」第三六八号)と題する、
山もとは霞むと詠みし春ゆうべ水無瀬川ひろきを絵地図は示す
 など二十首が、鎌倉時代へと誘ってくれる。
 詩では、宮沢肇の「女人失踪」(「花」第74号)が限りなく悲しい。「その人」の子らは「無い知恵とお金を絞り出して/母の葬式を出した」といい、その人は「炎の個室に姿を消し」、現世では「女人は永久に/行方不明のまま」と結ぶ。その女人とは詩人の妻であろう。抑えに抑えた表現の中に、詩人の慟哭が読者の心に悲しく響いてくる。麻生直子の「石狩川入水」(「潮流詩派」第256号)は、『海のオルゴール』の作者竹内てるよの誕生時と母の入水自殺を悲しく綴る。竹内の生涯を詩で連続して書こうとしていくのであろうか。次回の展開が楽しみだ。
 若い力を感じる「翡翠」が創刊された。同人諸氏の健筆・活躍を期待したい。「AMAZON」第493号が中道子、「鬣」第70号が大本義幸の追悼号。ご冥福をお祈りしたい。
(相模女子大学名誉教授)







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