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評者◆第24回 徳島市立図書館・清水伸好館長
駅前施設へのリノベーション 移転のメリットは周囲との連携――館長就任の翌年から急回復~秘訣はスタッフ一人ひとりへの意識付け
No.3276 ・ 2016年10月29日




■「人と文化が出会う駅前図書館」のキャッチフレーズで、2012年4月にJR徳島駅前のアミコビル5・6階に移転・オープンした徳島市立図書館。旧館のスペースの3倍超、収蔵可能書籍も50万冊と図書館としてのスペックが大幅に拡充された。なかでも注目されるのが、旧施設をリノベーションして図書館仕様にした点だ。近年では、埼玉の商業施設・桶川マインに入る「桶川駅西口図書館」、青森・つがる市のイオンモール内に入る「つがる市立図書館」などの事例が見られるが、徳島市立図書館はその先駆的存在でもある。ここでは、移転オープン後4年を経過した同館3代目館長の清水伸好氏に、商業施設の活用による図書館のメリット・デメリットなどについて話を聞いた。

■4年前に商業施設に移転 中心市街地活性化目的に

 ――4年前に徳島駅前に移転した経緯は。
 「まず、移転前の2008年から図書館流通センター(TRC)が指定管理者として徳島市立図書館を運営していた。ここから歩いて約15分の中央公民館が入るビルに約1000平方メートルのスペースだった。移転拡充事業計画が策定されたのは2010年。徳島市には分館はなく、この図書館1館のみだった。そのため、市議会や図書館協議会などで図書館機能を拡充すべきとの意見が上がっていたようだ。さらに、図書館という施設を使って駅前の賑わいを取り戻そうなどの意見も上がっていたとも聞く。そのとき、ちょうどアミコビル内の東急REIホテルの宴会場と貸室だったフロアが空き、市がその5、6階に目を付けた」
 ――移転後の図書館の利用状況は。
 「旧館時代の来館者の人数は計測機器がなかったため分からないが、移転初年度は約58万人の方に来ていただいた。総貸出冊数は前年度の倍近い約105万冊(前年度約58万冊)、総貸出人数は倍以上の約25万人(同約11万人)、新規登録者は前年度の約6倍の約1万2000人(同約2300人)。これらの数値からも、移転オープンは成功したといえるだろう。こうした数値が伸びたのは、新館オープンに加えて、開館日が40日増え、開館時間を2時間延長した効果だと思われる。しかし、翌年の2013年度の来館者は約50万人、14年度は約53万人と12年度に比べて減った。貸出人数はほぼ右肩上がりが続いているので、新館オープン年度の特需がその要因だったのだろう。2015年の来館者は58万人超と移転初年度の数字を上回った。もちろん、総貸出人数(約27万人)、総貸出冊数(約107万冊)も超えている」

■来館者、2年目に減少するも、3年目、4年目と急回復

 ――急回復した理由は。
 「私が館長に就任したのは2014年4月。その年はこの4年間で最も来館者が少なかった。2015年度からの新しい指定管理期間になって大きな業務の追加があったわけでもなく、周囲の環境変化もなかったので、正直なところ理由が明確には分からない。ただ、14年度は数字が落ちているのが、月次でも見てとれた。そこで、スタッフ全員に、『なぜ来館者が減っているか』についてレポートを書いてもらった。そこには『図書館専用の駐車場がないから』『市民目線のイベントが少ない』『本の品揃えが悪いのでは』『自習をOKにすれば高校生も来るのでは』など、スタッフそれぞれが原因を考え、来館者の減少を推測した内容が書かれていた。なぜかレポート提出後から、前年を上回る数字が出てきた。もしかしたら、スタッフ一人ひとりが数字の減少について理由を考えることで、本人たちも意識しないうちに接遇などを考え、影響を及ぼしたのかもしれない」
 ――新図書館の設置にあたって、どのようなビジョンを策定していたのか。
 「目標とする図書館像は大きく分けてふたつ。ひとつが市民や市政の抱える諸課題を解決する支援を行う図書館、もうひとつが情報・知識・人・組織を結び付け、知と交流の拠点となる図書館。貸出中心のサービスからの脱却を目指し、市民の課題解決などを支援する滞在型図書館として役割を果たしていくよう、市は定めている。そのなかでも、①児童サービス、②地域との連携、③調査研究支援――の3つが重点的な運営施策となっている。とくに児童サービスは、おはなし会もしくはそれに準ずるものを毎日2回開催することと仕様書に明記されている。おそらく、こ
こまで徹底している図書館はうち以外にはないのではないか。また、調査研究支援では、これまでカウンターと併設されていたレファレンスコーナーを独立させたほか、電子図書館も積極的に活用している」

■徳島大学と連携協定 サッカーチームとコラボ地域連携を拡充

 ――地域との連携については。
 「私は3つの重要施策のなかで、地域連携が最大のポイントだと思っている。2013年11月には、徳島大学附属図書館と連携協定を結び、相互貸借、レファレンス協力、双方での展示などで協力してきた。今年はさらにこの連携を拡大しようと考え、徳島大学の附属図書館の館長に「健康いきいき講座」と銘打って講演してもらうことになった。このほか、サッカーJ2リーグに加盟する『徳島ヴォルティス』の選手による読み聞かせやサイン・握手会などを当館で開催した。選手が選ぶおすすめ本のブックリストを作成し、コーナー展示も常設している。それ以外にも、徳島県信用保証協会ともこれまで共催イベントを実施していたが、昨年からは趣向を変えて現役経営者による起業に関する講演を行った。これまで以上の人が参加し、同協会のPRにもつながったようだ(経営者BOOK de トーク)」
 ――新たな図書館のビジョンを実現するうえで、既存の商業施設に図書館が入居するメリットについては。
 「駅前に賑わいを、という目標については効果があったと思う。アミコビルは隣接するそごう百貨店と連絡通路でつながっている。明確に数値化はできないが、効果は上がっているようだとそごうの方に聞いている。なかでも、そごう内の書店さんには図書館ができたことでプラスの相乗効果があったそうだ。また、東急REIホテルの宿泊客には滞在日数内に当館で書籍を借りることができる『団体貸出』も行っているほか、貸出カード保持者はランチバイキングが100円引きとなるサービスも実施している。さらに、図書館内に大きなイベントスペースがないため、アミコビル3、4階にあるシビックセンターの貸室でイベントを開催することも多い。この11月には、バリアフリー映画会を共催で実施する。地方のロードサイドにポツンと単独で新図書館が存在していたら、これほど多くの来館者が来たとは思えない。駅前の商業施設に入ることで、施設内の店舗や周囲と連携を図れるのが大きなメリットだといえる。それは地域連携をビジョンとして掲げるうえでは欠かせないことでもある」
 「また、自治体にとっての最大のメリットは、事業費10億円で図書館が作れたことではないだろうか。建物を一から新築した場合、かなりの費用負担となる。多くの自治体が税収減などで財政は厳しい。以前に建設された施設の維持・管理費の負担にあえぐ自治体も少なくない。そうした情勢では、新たに箱モノとして図書館を作るよりも、既存の施設を利用するほうが、この時勢の理にかなっているのではないか」

■工夫とアイデアでデメリットをメリットに

 ――デメリットは。
 「建物自体が図書館仕様として建設されていないので、一般的な図書館のように大量の書籍が配置できるほどにはフロアの耐荷重値は大きくない。そのため、フロア面積の割には、開架書架に配架できる書籍が少なくなる。ただ、そのデメリットも裏返せば、開架書架の高さが一般よりも低くなり、フロア内の見通しがよくなって、館内も明るくなったり、死角が少なくなったりというメリットにもなった。そのほかにも、バックヤードが少なく、スタッフ約40人が作業するにはスペースがかなり狭いので、シフト体制などの人員配置を工夫しながらやっている。旧施設のリノベーション活用というのは元来、図書館向きの施設にはなっていない。大事なのはそれを踏まえたうえで、今ある施設を現場でいかに活用するかという工夫やアイデアを出すことではないだろうか」
 ――清水館長は現職につくまでは、長年東京のTRC本社でエリアマネジャーという担当地域の図書館をサポートする仕事をされていたと聞いた。また、受託館や指定管理館を監査する立場として、多くの図書館を見てきた。その経験を今の館長職にどのように活かしているか。
 「図書館として、指揮命令系統などがきちんとした組織づくりをしていきたいと考えている。実は、5階のこども室、6階の一般室、移動図書館の3つの部署は縦割りの組織となっている。それを横串しにして各部署の横のつながりもつくりたいと考え、昨年にこれら3部署の人員の半数を入れ替えた。その元々の狙いは、図書館全体の仕事の流れを知ってもらい、今の自分の仕事や立ち位置を理解してもらいたいと思ったから。例えば児童サービスを得意とする職員は多く、もちろんその専門性も必要ではあるが、まずは全体の図書館サービスを俯瞰したうえで、児童サービスという仕事はどういうものか、どのような位置づけなのかを理解してほしいと考えている。規模が大きい図書館だと、全体が見えにくい。それにひとつの部署だけにいると、マンネリ化してきて、仕事に流されがちになる。それが他の部署に行くと、元いた場所の改善すべきところが見えてくる。そうやって意識を常に変えていくことが必要だと感じている。昨年度に来館者数が移転後最高の数字になったのは、そうしたスタッフ一人ひとりの仕事への意識がこれまでよりも明確になったからかもしれない」

■市が人件費アップを提言 指定管理制度で希少な例

 ――徳島市は指定管理者制度を採用する自治体のなかでも、図書館の役割やその存在意義などについて意識が高い自治体だと聞いた。
 「新たに2015年から5年間の指定管理者としての契約を更新したが、今期からスタッフの人件費を上げられることになった。その仕様書にはこう綴られていた。『利用者のニーズに的確に応えるためには、高い志を持った優秀な図書館職員の確保が必要不可欠である。また、指定管理者制度において指摘される官製ワーキングプアの社会問題化も看過できない。このため、(略)図書館業務遂行のための知識・経験を有する人材の確保、職員の継続性の観点から、職員の良好な待遇の確保に努めることを求める。また、教育委員会は、安易に人件費の削減のみを追求することは、図書館の管理運営水準の低下をはじめ多くの問題がある(略)』。これまで、運営費用を削減することを主目的に指定管理者制度を導入する自治体が多かった。スタッフ一人ひとりの良好な待遇のために、人件費にまで配慮し言及した仕様書は、私は初めて見る。元々、指定管理者制度を受託した際の仕様書も他の自治体に比べてかなり分厚く、細かい内容になっている。徳島市が、自治体のなかで図書館をどう位置付け、活用しようという考えが明確になっている証拠だといえる。それだけ徳島市が図書館運営に熱心であるともいえるだろう」
(了)







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