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評者◆宗近真一郎
「アメリカ問題」はすでに削除され、つねに復元される――さよならアメリカのためのエスキス②
No.3352 ・ 2018年05月26日




■さて、アメリカはどんな風に凋落しつつあるのか。身近なところにその兆しが現れている。五感に準じて問いを重ねていけば自明のことだ。今に始まったことではないが、とくに最近、しかも沖縄の普天間の周囲では、いろいろなものが落ちてくるのが目立つ。オスプレイをはじめヘリや偵察機、ヘリの窓枠等々。不時着というのもある。何故か。極めてシンプルに、ネジが緩むように、駐留米軍の管理が緩んでいるからである。何故、緩むのか。それをきちんと監視し瑕疵を糺すべき当事国の政府の機能が軟化しているからだ。つまり、軍備に関する駐留米軍の日常の管理態勢を維持するアメリカ側のフレームが緩んでいる結果としてものが落ちてくるわけである。それは、この国の現政権の牽制機能の弱さの反映でもあり、現政権がアメリカに一方的に服従していることのエビデンスになっている。これらの不始末によって、アメリカとして、というよりも両国の政権が出来るだけ被覆しておきたいはずの米軍基地の問題などが露出してくる。象徴としての「落下」ということである。リドリー・スコットは、一九九三年のアメリカ軍のソマリア派兵で使用された巨大なヘリコプターMH―六〇Lブラック・ホークがソマリア民兵のミサイルによって撃墜されるシーンをフィルム“ブラック・ホーク・ダウン”で描いた。巨大なヘリがバランスを失い、単なる無力な黒い鉄の塊になり、大きく揺らぎながら墜落する映像が劇場公開されたのは二〇〇一年だった。その大きな揺らぎの映像は、今日のトランプ政権の姿に符合する。衰退するものは、過剰にかつ理不尽に現れるということである。
 現在の日米関係を画定している日米地位協定の前身である日米行政協定は、サンフランシスコでの講和条約のあとに吉田茂が下士官のコーヒーハウスで単独で調印したものだというのがぼくの一義的な知見である。一般的に、日米(従属)関係を規定しているのは安保条約だと考えられおり、事実、安全保障という枠組みは、国家間のヘゲモニーを考えるうえで大きな要素であるには違いないが、現実的な運用として日米地位協定によって駐留米軍の専横が予め容認されていることが周知となったのは、この五年ほどのことだ。当初は秘密裡に実質支配できていたのが、支配する側のアメリカがテンションを維持できず、すき間から不祥事が続発して、結果的に、地位協定のことがメディアの前面に現れ、その条文が精緻に検証されるべき状況になっている。
 では、何がアメリカの没落あるいは衰弱の現象か。二つあって、ひとつは二〇一七年初に大統領に就任したドナルド・トランプの挙動である。ロシア疑惑で窮地にたって、エルサレムの首都認定など禁じ手をいろいろ打っている。在任中にバランスを失って、アメリカ国内で暴動、あるいは政変が起こってもおかしくない情態である。トランプのプロフェッショナルなキャリアは、いわゆるビジネスマンである。名門ウォートン・ビジネススクールの出身だが、実際は、親から継承した資産をロー・プロファイルなスキルで膨らませた不動産屋に過ぎない。交渉のステロタイプな駆け引きには通じているかもしれないが、地道にものをつくって売るという経済センスがあるとは思えない。それでもポピュリズムの勢いに乗ったのは、アメリカ市民が、オバマのピュア・ポリティクスに辟易したからだと推測される。
 トランプは、アメリカを再び偉大にすると息巻いている。再び、と言うトランプには、今のアメリカは既に「偉大」ではないという自覚があるということだ。では、そのために、何をするのか。メキシコからの不法移民を排除するために国境に壁をつくり、過去に遡って不法移民の国外退去を命じ、対テロの名目でムスリム地域からの入国を極度に制限し、アメリカ人の雇用を維持するために恣意的な輸入制限を導入する。これらの施策によって、それぞれの対処的な目的は充足されるのかもしれない。それで、アメリカ人の雇用や短期的な経済指標は改善するのかもしれない。しかし、これらの施策はアメリカの「偉大さ」の中枢的な構成要素を自己否定するものであることは、ちょっと考えれば明らかである。もともと、アメリカはヨーロッパ公法の秩序から離脱した移民によって形成され、世界のあらゆる地域からの移民を受容し、多様性を内在化しえた国家だった。アメリカの「偉大さ」はこの内在化された多様性にあり、この多様性においてアメリカは類を見ない世界模型として現れたのだ。経済規模や貿易収支などは、本来は、付属的な指標に過ぎなかった。
(評論家、詩人)
――つづく







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