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評者◆秋竜山
哀しみを秘めたような笑う顔、の巻
No.3352 ・ 2018年05月26日




■先週号で取り上げさせていただいた濱田研吾『脇役本 増補文庫版』(ちくま文庫、本体一二〇〇円)では、吉田義夫という、悪人顔の第一人者。あまりのにくたらしさに、昔の野外映画会(ムシロに座って村人たちが観る映画、夜になって、その暗さがなくては上映できない映画、巨大な大時代的な映写機がカタカタとフィルムをまわす音がすさまじかった映画、その音にたえて観る映画、フィルムが止まったりすると、ズバズバとハサミで切り取ってしまう映画、まごまごしていると暗やみの中で「オーイ!! 早くしないと雨がふってくるぞ!!」という声が星空の中にひびきわたる映画)では、吉田義夫が画面にあの悪人顔で登場すると、拍手がおこるほどであった。悪人の脇役であれほどの名脇役になったらたいしたものだろう。そして、〈伊藤雄之助〉であった。彼が、スクリーンに映し出されると、笑いがおこったものであった。もちろんセリフも喋らず、無言である。それだけで笑いをさそった。これは喜劇役者の理想とするところである。伊藤雄之助は喜劇役者ではなかった。それでいて、笑われる。喜劇役者に、「ずるいよ」と、いわせてしまいそうであった。伊藤雄之助は、天性ともいうべき馬ヅラの顔を持っていたからである。ヒトは、馬ヅラの顔を見ると笑いたくなる習性がある。馬がそれをどのように思うかはしらないが、馬ヅラの馬にそっくりの顔は、もうそれだけで充分に可笑しい。
 〈名脇役は多い。脇役本も多い。でも名脇役本が「名著」となり、「ベストセラー」になることは稀である。「大根役者、初代文句いうの助」(朝日書院・一九六八)は、そんなめずらしい例のひとつとなる。「ゴテ雄」「文句いうの助」の異名をもつ性格俳優の楽屋や放送局での発言をまとめたもので、帯には「社会派俳優伊藤雄之助が俳優生命を賭してブチ撒けた芸能界への告発状 痛快無比 八方破れの文明批評 ご存知――伊藤流舌法の見事な冴え!」とある。〉(本書より)
 本書には伊藤雄之助をうまくいいあてている文章がある。
 〈やる気のないような、バカにしたような、かったるいようなセリフまわしがたまらない。〉(本書より)
 私も、その通りだと思う。
 〈冷酷無比な悪役から不器用な善人、とぼけた三枚目まで、なんでもござれの人だった。ながいウマヅラはもちろんのこと、やる気のないような、バカにしたような、かったるいセリフまわしがたまらない。〉(本書より)
 これこそ伊藤雄之助の最大のホメ言葉だと思う。そして、私がもっともミリョクをおぼえるのは、あの馬ヅラの顔で笑ってみせる表情である。哀しみを秘めたような笑う顔である。馬がよくこのような笑い顔をしてみせる。小林一茶の俳句に「夕時雨馬も古郷へ向いて嘶く」というのがある。馬だから、「ヒヒーン」と嘶く。だから、伊藤雄之助がどうだというわけではないが、よく考えてみると、伊藤雄之助に、そのような哀しい表情を感じさせるものがある。馬ヅラのせいなんだろうか。そして、さらに考えてみる。果たして笑っていいのだろうか……と。







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