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評者◆小嵐九八郎
歴史の特徴とその匂いを炙り出す――佐久間章孔歌集『洲崎パラダイス・他』(本体二〇〇〇円、皓星社)
No.3352 ・ 2018年05月26日




■自称歌人に過ぎないので信用されては困るのだけれど、俳句と短歌はますます流行ると推測する。電車に乗れば一車輌の九割はスマホを手にしていて、短い文に反応する人が圧倒的に多いはず。アルバイト先の大学でも感じるが、長文を読み熟せる若者は減るばかりだし、そもそも読んでいない。
 短歌について言えば、口語というよりは喋り語が増えていく一方だろう。今月の二大短歌誌を捲ると若手のごりごり、いや、もう“大家”と映る歌人は話し言葉を使っている。百人一首や万葉集、晶子、啄木、茂吉、邦雄、隆で短歌の凄みを教えてもらった我ら老人の時代と峻別されてきている。
 ただ、どうしても時代感覚というのは身心に染め付いていて、俺は、文語と話し言葉の鬩ぎ合う短歌が好きである。だから、四十代半ば頃に「夜ふかく石もなげごろさりながらもう当たるなよだれの窓にも」とか「おりぼんでこの首くくってくださいな村はぼんやり戦後もぼやり」の歌を知った時、実に、実に嬉しくなった記憶がある。この歌の作り手は佐久間章孔氏、第一歌集の『声だけがのこる』(砂子屋書房)に載っている。一九八八年に『短歌研究』新人賞を貰った。
 その佐久間章孔氏が、なんと三十年振りに第二歌集『洲崎パラダイス・他』(本体2000円、皓星社)を「月光叢書」として出した。当方が青春時代に親の金をくすねて通った川崎の南町や堀の内と似た雰囲気を洲崎は持っている。この歌集は、現代か過去を追憶するというより歴史の特徴とその匂いの炙り出し、どうやらこの国のできる頃あたりの神神の出現と神殺し、妖しく怪しい近親的愛などぎっしり詰まっている。
 「硝子戸のうすらあかりに頬を寄せそんなにもただ散りたいか花よ」――ごく普通の老人の思いが、大袈裟でないごく普通の蓮っ葉調に任せていて「うん、そうだっ」となる。「わたしだけの贋の歴史の日めくりにあなたの言葉を書き込みましょう」――自身の存在と言語への嗤いの中に確と誠の心が流れゆく。







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