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評者◆宗近真一郎
「アメリカ問題」はすでに削除され、つねに復元される――さよならアメリカのためのエスキス①
No.3351 ・ 2018年05月19日




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 とりあえず、二〇一八年の半ばというアバウトなレンジで日付を入れる風にして、アメリカについて記し始めよう。あるいは、けっきょく、日付は要らなくなるのかもしれない。しかし、アメリカがアメリカという残余として世界に遍いている、それが固有名において語られるか、あるいは、ついにそれが固有な名を失うところまで一般性に凋落するのか、語ってみた後でその日付に回帰することの是非が問われる予兆を布置しておく。
 ぼくは、アメリカに二度、延べ十年ほど滞在した。一度目は、ロサンゼルスに、一九九〇年末から一九九六年半ばまで。二度目は、シカゴに、二〇〇一年八月から大凡四年間。いずれも、メガバンクに属するかたちで、多国籍化している日米の企業を相手に、いわゆる証券化、企業買収にかかわるアセット・ファイナンスを手がけた。私生活では、総じて日本人コミュニティからは距離を置き、同業者であるマーチャント・バンカー、弁護士から文学(中上健次や柄谷行人などの)研究者、フラメンコ・ダンサー、インデペンデント・フィルムメーカーまで、多層のアメリカ人のコミュニティにコミットした。だが、アメリカについて語るにあたって、それらの体験が影を落とすとすれば、それは、彼ら彼女らとの交流そのものではなく、そこにいたときには隠されていたものだ。そこにいて、フリーウェイを疾走し、大きなプロジェクトのクロージング寸前のセッションで、クラブサンドイッチをかじりながら弁護士のオフィスに泊まり込んだり、濛々とポット(大麻)を回すような彼ら彼女らのパーティの現場の風景を回想するものではない。その場その場は、たしかに、局地的なアメリカだった。しかし、事後的には、その現場性が削ぎ落されて、アメリカを離れて十年以上を経てこれを記す現在に求心する、とても抽象的なエスキスと言わねばならない。
 さて、これから次の四つのポイントでアメリカについて記す。
 まず、現在のアメリカ。とくに衰退過程にあるアメリカの現在を描き出す。
 次に、戦後日本とアメリカの関係の様態。つまり、アメリカとの関係に配置された日本というフレームで「戦後」が継続している状況のアウトラインについて述べる。
 三番目は、問いかけの対象としてのアメリカについて描く。アメリカの本質、つまり、アメリカはそこに滞在していたぼくとってどんな風に再帰してくるのか。さきに記したその場その場のアメリカに被覆されていたもの、アメリカに張り巡らされている神話作用の力線がどのように現れてくるかということである。
 最後に、四番目、アメリカに象徴される資本主義の段階と日本の現況において、全てのことが「経済」に収束されてしまう。グローバリズムとは、地球規模で最適な「経済」に到達しようとする普遍「経済」主義のようなものと考えられる。しかし、その震源であるアメリカで起こっている著しい格差が世界に拡散され、現実的には、グローバリズムとは、「経済」的ヘゲモニーが行使する収奪のメカニズムに他ならない。どうそれに抵抗するか、ということだ。

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 まず、現在のアメリカは明らかに衰退の過程にある。没落といってもいい。アメリカの凋落については、これまでにも喧伝されたことがあった。とくに、ベトナム戦争での敗北ではイデオロギー的な頽廃において。また、財政赤字、貿易収支赤字、家計部門の赤字が折り重なった八〇年代には経済の弱体において。しかし、その都度、アメリカは西側陣営のヘゲモニー国家としての復元力を見せ、一九八九年末のベルリンの壁崩壊、一九九一年初の第一次湾岸戦争の勝利によって、現代の「帝国」のポジションは不動になったかのようだった。日系二世のフランシス・フクヤマが「世界史の終わり」を記して、冷戦の終わりと資本主義の勝利を、ヘーゲル的絶対知への到達のように保守主義の理念でサポートしたことは周知の通りである。
 ところが、その僅か十年後に、九・一一の出来事が起こった。ブッシュ・ジュニアは市民の情緒を糾合するかたちで、無根拠のままアフガニスタンとイラクを攻撃した。無根拠というのは、マッチポンプのようなアメリカの自己回帰的な口実のことではなく、国際紛争における宣戦の布告や国際社会(国連)の承認などが放棄されているということである。その無根拠の根拠となるキーワードは「テロとの戦争」であり、テロを撲滅するためには国際法のフレームに準拠しなくてもいいという断言が頻発した。戦争行為へのプロセスが加速し、単純化され、一方的に時限を切り、空爆が開始される。
 アメリカ没落の端緒を特定するなら、そのあたりの現象に違いない。同時に、世界史的な時間が切り揉み始めたと言えよう。プロセスの加速は、「経済」活動のプロジェクションの形態を模倣しており、ぐんぐんドライブがかかって国家主権さえもが相対化される。そこで、アメリカの衰退という場合、そのファクトを明証するだけではなく、エクリチュール的身体においてそれに賭けるべきリアリティの実践としてそれを追走していきたいと考える。九・一一以降、国家主権や国連を放棄しているアメリカという国家が自ら暗黙に前提しているアメリカ国家の絶対性を、国家が他の国家との共存と対話において国家でありうるという相対性へと引き直すためである。
(評論家、詩人)
――つづく







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