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評者◆殿島三紀
ハッピーエンドがうれしい難民映画――アキ・カウリスマキ監督『希望のかなた』
No.3330 ・ 2017年12月09日




■『ゴッホ~最期の手紙~』『ザ・サークル』『南瓜とマヨネーズ』『ヤーン』等を観た。
 『ゴッホ~最期の手紙~』。監督・脚本はドロタ・コビエラ、ヒュー・ウェルチマン。なんと驚くことに125人の画家たちが描いた油彩画のアニメ。アートによるサスペンスだ。「星月夜」のあの糸杉と星の渦巻きが動き出す様子には鳥肌が立つ。
 『ザ・サークル』。ジェームズ・ポンソルト監督作品。原作はデイヴ・エガースの同名小説。世界一のシェアを誇る超巨大SNS企業・サークルを舞台に繰り広げられるSNSサスペンス・エンタテインメント。近未来の恐怖ではなく今そこにある怖さだ。
 『南瓜とマヨネーズ』。監督・脚本は冨永昌敬。原作は魚喃キリコの同名人気漫画。古い木造アパートに暮らす二人。音楽の夢を追う恋人を支え、女はキャバクラで働く。もし「神田川」のフレーズが流れたら、すっかり70年代だ。男女の仲も、日常も脆い。ほろ苦いような甘酸っぱいような空気感の映画。
 『ヤーン』。ウナ・ローレンツェン監督作品。世界的なクラフト・ブームを背景に生まれたクラフト・アート・ドキュメンタリー。編み物が生活に根ざしているアイスランド発。編み物を使った巨大なアート。太い糸を使った蜘蛛のようなサーカス、クリストばりに機関車や柱を編みぐるむユニークなアーティスト達が登場する。
 今回紹介するのは『希望のかなた』。フィンランドの鬼才アキ・カウリスマキ監督の最新作だ。この監督、動く紙芝居というか、スティール写真のようなムービーというか、ちょっと変わった作風である。俳優の顔にはひとつの表情がしばし貼りついたままだったりして、シンプルで妙に懐かしい画面構成にはまる。
 が、本作はこれまでの作品とはちょっと雰囲気が違った。『浮き雲』(1996)、『過去のない男』(2002)、『街のあかり』(2006)という敗者三部作を完成させたカウリスマキ監督にとって、本作は『ル・アーブルの靴みがき』(2011)に続く港町三部作の二作目――の筈だったが、監督はその呼び方を難民三部作と変えた。『ル・アーブルの靴みがき』も難民問題を扱っているが、驚くほどのハッピーエンド。だが、現実の難民問題はハッピーどころかエンド・マークも見えない。今回はそんなシリアからの難民が主人公である。長く苦しいヘルシンキへの逃避行の途中で生き別れになった妹を探すシリア難民がレストランオーナーやその従業員らの善意によって救われるという話だ。
 相変わらず飄々とした雰囲気ではありながら、主人公がネオナチに襲撃されるシーンは穏やかな世界に突如ふり掛かった悪夢だった。俳優達の無表情さが持ち味の彼の映画の中で主人公の濃い顔と豊かな表情がこれまでの作品とは違った雰囲気を醸し出す。彼の存在が本作にこれまでと違った現実感を与えているのだ。尖鋭な社会問題や政治問題をあまり表に出さない監督にしては珍しいかもしれない。
 とはいえ、この監督、なんとなく可笑しみのある空気や北欧らしい静かな自己完結した世界観を漂わせているだけではない。2002年のNY映画祭に一緒に招待されていたアッバス・キアロスタミ監督が前年に起きた同時多発テロの影響で、イラン人故にビザが発給されず、入国できなかったことに激怒、参加をボイコットしたというエピソードだってあるのだ。その時の声明はいかにもカウリスマキ監督らしいユーモアを湛えながら、言うべきことは言うよ、というもの。「石油すらないフィンランドの監督は不要だろう。米国防長官はわが国でキノコ狩りでもして気を鎮めたらどうか。世界の文化の交換が妨害されたら何が残る?」
 今年ベルリン国際映画祭で上映され、批評家、観客から圧倒的な支持を受けて監督賞を受賞した作品だ。
(フリーライター)






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