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評者◆『屍人荘の殺人』を出版した今村昌弘氏
×××が人間を取り囲む前代未聞の密室殺人!予想を超える展開と精緻な論理の本格ミステリ――三氏選考委員も激賞、そして既に五刷。末恐ろしい新人による第二七回鮎川哲也賞受賞作
屍人荘の殺人
今村昌弘
No.3330 ・ 2017年12月09日




■既に五刷、売れている。今村昌弘氏のデビュー作『屍人荘の殺人』、第二七回鮎川哲也賞受賞作である。加納朋子、北村薫、辻真先、選考委員三氏が大絶賛というのもうなずける。応募総数は一四一編、最終候補作は六編。北村氏曰く、「ほとんどが、例年なら当落線上にあるもので、半分は受賞してもおかしくない作」。そんな激戦をぶっちぎった。
 どれほどの本格ミステリマニアかと思いきや、「ミステリに詳しい人間ではないのです」という意外な答え。さらに驚くべきことに、本作は二カ月半で書き上げたというのだ。
 「二〇一六年のミステリーズ!新人賞(東京創元社主催)に応募したのですが、最終選考で落選。ちなみに同賞に応募したのは短編だったから。もともとミステリが好きだからというわけではないのです。落選の知らせがあった一、二週間後の(二〇一六年)八月中旬から本作を書き始めました。締め切りは一〇月三一日、残された時間はおよそ二カ月半。長編はほぼ初めての経験でもあり、当たって砕けろの精神でした」
 締め切りとの闘いについて訊くと、「一日二〇ページ書けばだいたい二〇日間ちょっとでいけるという甘い考えを持っていましたが、うまくいくはずがありません。締め切り前日の晩まで校正作業をしたのですが、何回やっても修正点は見つかる。夢の中でも校正をしました。恐ろしい話なのですが、受賞が決まってから読み直したら登場人物の漢字を間違えていた。青くなりました」
 物語を紹介しよう。神紅大学ミステリ愛好会会長の明智恭介と会員の葉村譲が、同大学の剣崎比留子に誘われて、映画研究部の夏合宿に参加することに。剣崎によれば、「今年の生贄は誰だ」という脅迫状が映研の部室に置いてあったというのだ。行く先はペンション「紫湛荘」。映研、演劇部員らによる撮影は順調に進んだが、事件は夜の肝試しの最中に起きた……。この先に尋常ならざる展開が!
 「いざ鮎川哲也賞を意識したときに、どういう賞なのだろうと調べることから始めました。単なるミステリではなく本格ミステリであるということと、過去の受賞作を見ると密室ものが非常に多いことが分かりました。しかし長らく言われていることですが、密室トリックは出尽くした感がある。では新しい密室を作るにはどうすればいいか。そこが最初のとっかかりでした。つまり何で囲むかを考え、囲まれている人間を考えたら、×××しかないと思った。×××の映画でも、人が×××に囲まれるのは鉄板のシーン。しかも×××の密室殺人はないなと思ったのです」
 ×××の登場という予想を超える展開と精緻な論理、この二つの歯車が、しっかりかみ合い、驚くべきドライブ感を生み出している。
 本書に収録されている「受賞の言葉」には、「ようやく小説を書くことに挑戦し始めたのは大人になってからのことです」とある。仕事をしながら趣味で文章を書き、明確に何かのジャンルを目指していたわけではないが、ファンタジー、SF、ホラーなど目に付いた短編のコンテストに「応募しようという気まぐれが起きました」。初めて手応えを感じたのは、電撃大賞短編部門で二次選考を通過したとき。約二年前のことだ。
 「本気で小説に挑戦するために、仕事を辞めました。そのとき両親と、三二歳の誕生日までに結果が出なければ諦めると約束しました。つまり二〇一七年一一月までに結果を出さなければいけなかった。応募してから、半年近くは結果を待たなければならないので、一刻も早く出す必要があった。鮎川哲也賞の締め切りは迫っていましたが、だから諦めようということではなく、そこに間に合わせなければならないという背水の陣で挑みました」。そして結果は出た。
 登場人物の名前が語呂合わせで覚えられるなど(映研の高木凛は、背が高くて凛としているなど)、読者に対して親切であるということも人気の追い風となっているようだ。
 「フェアに手掛かりを提示して、それがちゃんと回収できているということ。読者を惑わそうとか、見破れないトリックにしようということではなく、このシンプルさを追求しました。とにかく読者に状況を分かりやすくする工夫はしたつもりです。本格ミステリは怖くないし、難しくない、懐の広いものだよということを知ってもらえる作品だと思います」
 読者は必ず続編を期待するはず。というのも幾つかの謎が残されるからだ。
 「有栖川有栖先生の『学生アリス』シリーズが大好きなのです。ですから一つのキャラクターには連続して活躍してほしいし、キャラクターに対する愛情の深いシリーズを目指したい。既に物語の構想はあります。しかし本作の評判が予想以上によくて、ハードルがどんどん高くなっている。これはくぐりがいがある」と苦笑いしながら、「脳味噌を絞ってこれと比肩するくらいのものを書かなければという覚悟です」
 末恐ろしい新人の誕生である。もちろん×××の正体は秘密。本書で確認を。






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