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評者◆秋竜山
色紙の失敗作、の巻
No.3329 ・ 2017年12月02日




■「ほどほどにしろ」なんて、若い頃、親父によくいわれたものであった。飯間浩明『小説の言葉尻をとらえてみた』(光文社新書、本体七八〇円)の中に、
 〈書店会場で店頭売り用の本にサインを始める。そして、サインを書き損じる。すると同行者が笑っていう「だいじょうぶよ。カケルくん。あとでとりかえておくから。版元には本は売るほどあるんです」。この「売るほどある」は、国語辞典に載るべくして、必ずしも載っていない表現です。「数えるほど」「毛ほど」「死ぬほど」「山ほど」など、「○○ほど」の形で程度を表わす場合があります。これらは「三省堂国語辞典」にも出ています。ならば「売るほど」も項目を立てればよさそうですが、これまでその機会がありませんでした。理由は、「売るほど」という定型表現ができたのが比較的最近だったからです。〉(本書より)
 こういうことがあった。漫画ファンだという。色紙にサインしてくれという。漫画家の色紙というのは、サインだけでは済まない。必ずその色紙に漫画のキャラクターのようなものを要求される。自分のキャラクターを持っている漫画家はいいが、子供漫画家と違って大人漫画家は自分のキャラクターというようなものを持っているような持っていないような、あやふやである。だから、適当な漫画を描いてごまかし、それにサインをつける。ある時、ほどほどに描いてごまかして渡した。ところが、自分では納得のいかない色紙のサインという思いがしてしまった。完全に失敗の色紙である。こういう時どーするか。差し出された色紙は一枚切りである。他に余分はない。私としては描き直したいのはやまやまではあるが、一枚切りの色紙ではどうすることもできない。家に帰れば色紙は売るほどある。いや、「数えるほど」と、いうべきか。それとも「山ほど」と、いうべきか。「捨てるほど」と、いうべきか。とは、いえ、ここには、たった一枚の色紙を失敗してしまったのだから(失敗とはいわず、気にくわない色紙というべきだろうけど)、そのまま、知らんぷりして渡してしまえばいいものを。その時の私はどーかしていたのだ。その色紙の余白に。―これは失敗作です。―と、書いた。受け取った彼は「エエッ!!」という顔をされたが、「面白いですね」と、いった。そして、「このような色紙ってあまりありませんからね」と、いった。これを、面白がるヒトがいたことに、今度はこっちが驚いてしまったのであった。そして、世の中にはいろんなヒトがいるもんだ!! と、思った。面白がることを知っているヒトだ!! とも、思った。その時は、そう思ったのであったが後でよく考えてみた時、いったん持ち帰ったのであるが、途中でその色紙をやぶいて捨てたのではなかろうかと、思った。それが、当たり前のことだろうが、そして、面白がるということは、そんな簡単なものではない、と思った。そして、さらに、もし無事に持っていたからといって、どーってことのないことだ。とも、思った。いろいろと、くだらんことを思わせてくれた色紙の失敗作であった。「ほどほどにしろ」とは、このことか。







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