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評者◆越田秀男
〈日常〉をつくる、疎む、壊す、奪う――志賀康「さあ、俳句はすでに成立した形式なのか」
No.3329 ・ 2017年12月02日




■動物は〈日常〉を命がけでつくる。自然の摂理に逆らわず〈常〉なることを旨とする。が、人間様だけはそうと知りつつ日常を疎んだり自ら破壊したりする。
 芥川賞『影裏』(沼田真佑)は、日常をつくることができず親からも見捨てられた男が、日常を根こそぎ奪う大震災で行方不明になる。この男になぜか惹かれた主人公がただ一人、捜索に奮闘する。“影裏”は無学祖元禅師の「乾坤無地卓孤  且喜人空法亦空 珍重大元三尺剣 雷光影裏斬春風」にある。空で空を斬るがごとし――作品との関係はご随意に解釈を。
 国勢調査による母子家庭数は、一九八五年~二〇〇〇年はほぼ四千件強で推移してきたのに、その後05年五千件強、10年六千件強と、急増カーブ。小説も世相を反映、日常をつくるに必死の姿が描写される。
 『小さな侵入者』(嵐22号/水上あや)は、主人公の庭に闖入し一人遊びする幼児の話。母は、夫が酒乱・DVで、夫に居場所を知られるのが怖く、保育所にも預けられない。母に逃げ場はないが子はもっとない。
 『ミタラシ』(てくる22号/南埜乃)のタイトルは飼い猫の名。離婚した女が、とにかく二人の娘を高卒まで導いた。が、期待の星、画家志望の長女はカラブリ。問題児の次女は職につかず、母が見つけてやるとその職場の男と出来て孕む。流産、そして自殺未遂……救いは理屈抜きの母性愛とミタラシだけ。
 『恋路の闇』(VIKING801号/永井芙佐子)の主人公の父は日常をつくれず自殺。母が再婚も、娘と義父との関係は良好、思春期を無事にクリアし、結婚。子は恵まれずも、舅・姑との関係はうまく築けた。頑張ってきた。しかし――実弟の実父を倣ったような自殺をはじめとして、舅・姑・義父・実母を次々と失い、夫との関係に空虚が押し寄せる。不倫……これまで営々と築いてきた日常があっという間に瓦解する。
 『川施餓鬼』(AMAZON485号/北川珪子)――武庫川で、自殺した腹違いの兄の施餓鬼を行うのはその妹と弟、及び妹の子。幼少期、彼らは貧困生活ドップリ。妹は結婚でき、子を授かると、夫は直ぐに別の女のところへ、結果母子家庭。弟は世間から厄介者に仕立てられ出奔するも、いまは地元に戻り身を立てた。一方兄は、牛乳屋の夫婦に見初められ婿入りし、もっとも平穏を得たはずなのに、結果は暗転。共に生活していたころは、兄を疎ましく思っていた妹も、死して兄の実像が浮かんでくる。
 『ほふりちゃん』(文学街351号/上遠野秀治)の主人公は故郷を離れて15年、失職して祭の最中に帰郷。子連れの元女友だちとうまくいきそうな気配だが、産土神が許してくれるか。タイトルの“ほふり”は穂ふり、火ふり、農耕の神、“ちゃん”はそのゆるキャラ。21世紀においても中央・地方の時空差は歴然としてある。若者はどこに着地するか。
 エゴエゴした日常をしばし忘れさせてくれるデザート的作品――『コーロ密かに』(文芸事始35号/川崎英生)の“コーロ”は合唱の意、“密かに”は作中で、昭和初期の詩人とされる人物の、詩のタイトル。自分のことを“ボク”と呼ぶ、ほんの少しJIS規格ハズレの娘と日本を飛び出して20年欧米暮らしだった伯母との交流。ボクの学校の合唱祭で取りあげた歌が、なんと、「密かに」。この詩人の孫がかつて伯母の恋人で、伯母に作曲を懇願、歌曲となった。出来すぎた話なのに、不自然さを感じさせず、しかもこの架空の曲が聞こえてくるかのよう。
 俳壇の話題――平敷武蕉が俳句のユネスコ文化遺産登録の動きに噛みついた(南溟3号)――《矛盾渦巻く時代に立ち向かい、時代の真実を問うところに俳句の課題がある。俳句を過去の遺物として、「遺産登録」=埋葬するなんて……》。国際的広がりをみせ、無季もありの脈打ち息づく表現世界が、遺産とは!
 志賀康はLOTUS36号の巻頭で《さあ、俳句はすでに成立した形式なのか》――俳句という表現形式のさらなる可能性を切り拓け、と檄。『二人称俳句の試み』(北野元生)は、論考自体が「キミ」を主語とする文から始まり、普通の文とを交互に重ね、俳句形式に限らず、言語表現全域での人称の役割の重さをストレートに知らしめている。以下は現代短歌実作、佐々木貴子『影おがる』の冒頭部分。
 《万緑の森の奥なる風の獄/ぐらぐらり光あらぶり風の獄/風おらぶ森ぐわらぐわらと日の光……》
(「風の森」同人)







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