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評者◆星落秋風五丈原
地獄の釜の蓋が開く
ミッドナイト・アサシン――アメリカ犯罪史上初の未解決連続殺人事件
スキップ・ホランズワース著、松田和也訳
No.3313 ・ 2017年07月29日




■灯り一つしかない曲がり角に、ナイフを持った男が立っている。その男の周りからじわじわと赤がしみ出し、見開きで見ると、まるで道に血が飛び散っているようだ。何とも不気味な表紙の男の顔は見えない。黒人か、白人か。判別がつかないのは、この男の正体が未だもって分かっていないからだ。この男こそミッドナイト・アサシン、テキサス州オースティンの連続猟奇殺人事件の犯人で「未だもって分かっていない」のは、お察しの通り捕まっていないからである。
 事件は1844年大晦日に始まった。真夜中に女性ばかりが襲われ、死体、或いは虫の息で発見され死亡。最初は黒人女性だけだったが、最後は白人女性、それも同日に二人を襲っている。単に殺すのではなく、遺体の損傷が激しい。全く別人の持ち物を腕にはめるなど、意味不明の行動を取るかと思えば、ターゲットだけを確実に殺して、重傷の目撃者は誰も正確な人相を言えない。プロファイリングや科学捜査が活用されていない時代では、犬を使って犯人の匂いを嗅がせるのがせいぜい。現代人感覚で読むと「ああ、貴重な証拠が…」と嘆くことしきり。
 恐ろしいのは、最初の時点で「犯人は黒人」というイメージが行きわたっていたことだ。「シリアルキラー」「サイコパス」などという概念がない時代、街の上役はイメージアップと犯人検挙に右往左往し、人々が次第に疑心暗鬼に駆られリンチに走る様が克明に描かれる。
 拷問まがいの尋問が行われたり、400人以上が連行されるが、誰も決め手がない。なかなか犯人を捕まえられないのに業を煮やした市長が、当時有名だったピンカートン探偵事務所に電報を打ったら、名前は同じだが全くの別人がやってきて、しかも無能過ぎてピンカートンを首になった彼は市長のツケで豪遊するという「この真面目な時に、何やってんだあんたら!」みたいなエピソードもある。
 本作は〈テキサス・マンスリー〉の記者スキップ・ホランズワースの初めての長編ノンフィクションだ。さすが記者だけあってまとめ方がうまい。温厚な葬儀社社員が実は密かに殺人を繰り返していた、という、こちらもぞっとする実話の映画化『バーニー みんなが愛した殺人者』の脚本も書いている。
 IT産業が盛んで「住んでみたい街」の上位に上がる、現在のオースティンからは想像もつかない。どうも夜寝る前に読むと気分がもやもやする心地がした。







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