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評者◆秋竜山
死ぬほど退屈男、の巻
No.3301 ・ 2017年04月29日




■遠い昔、子供の頃。娯楽といえば、月に一度の巡回映画というのがあった。今は、テレビがあるが、そんなもののない時代であった。東映の時代物のレベルが村人たちのレベルにピッタリしていて、大人気というところだ。そんな映画の中で、子供の私は「退屈」という言葉を学んだ。旗本退屈男と、銭形平次であった。旗本退屈男は主役であった。なにが退屈であるのか、映画のタイトルでもあるその退屈男が、映画の中では退屈どころか、いそがし過ぎる大カツヤクであった。銭形平次は、退屈だからか、いつも昼寝ばかりしていた。
 加藤諦三『自分に気づく心理学――幸せになれる人・なれない人』(PHP文庫、本体四七六円)で、〈無気力は人生における最も危険な兆候〉と、いう項目。
 〈退屈な時と感じることが許される人は救われる。しかし退屈と感じることが、重要な人の期待にそむく時、人は退屈と感じることはできない。退屈と感じることが恐いのである。殺されるほど恐いのである。しかも殺されるほど恐いのに、その恐怖感を感じることも当然禁止されている。基本的な感じ方はすべて禁じられている。殺されるほど恐いのに、その人はやさしいと感じていなければならないのである。実際には退屈でたまらない。面白くなくてどうしようもない。ところが恐くてそのように感じていると意識できない。そこが楽しい、面白いと感じていると意識する。そのように意識しているのは恐いからである。しかしこの恐怖感も抑圧される。そしてその恐い人を、やさしい人と意識する。〉(本書より)
 旗本退屈男は、旗本の二男坊だか三男坊だかしらないが、家の後継ぎは長男坊であったから、二男、三男となると、余計者であり、いてもいなくてもよい立場でもあって、それが退屈男といわれるゆえんだったのだろうか。世の中というものは、あまりいそがしそうな人間を娯楽人としてもよろこばない風潮があったかもしれない。ドサ巡りの芝居の二枚目はやっぱり世間からはずれた退屈男という役どころというものであった。ヤクザな男というのが、まじめないそがし人間よりも、若い娘たちにモテたものであった。グウタラでありながら、やる時はやるというのでなければ、只の退屈男になってしまう。退屈というよりも、ヒマというべきであり、若い娘たちが、そんなヒマ人に熱をあげて追いかけまわすということは、本当の所、娘になってみなければわからないだろう。
 しかし、本書で述べられているような退屈人を学問的に分セキされると、とたんに、なにがなんだかわからなくなってしまって、「私はなんで、こんな男を追いかけているのだろうか」ということになってしまう。女性にモテる男の条件として、あまりむずかしくない退屈人間であり、めっぽう二枚目のいい男であるということだ。三枚目で退屈人間が女に追いかけられたなんてこと、見たこともないし聞いたこともない。退屈で退屈で、死ぬほど退屈な男。それも、色男であったら、よくぞ、こんな男に生まれけり!! であって、まずもっていい人生を退屈がられることだろう。女が、「いい男だねぇ」と、ためいきをつくような男に生まれたいものである。色男金も力もないという。退屈さえあれば、文句なしで充分だろう。






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