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評者◆稲賀繁美
理論としての台湾の可能性――『知識台湾 台湾理論的可能性』(麦田出版、2016)
No.3289 ・ 2017年02月04日




■台北での国際デザイン史学会を後にして、早朝、桃園空港に向かった。空港の書籍売店には、日本の同類とは違って学術書も並んでいる。そこで偶然手に取ったのが、表題の書物。学会で筆者と並んで基調講演者となっていた、UCLA/香港大学の史書美が筆頭編者となっており、彼女の英語での基調講演と一部重なる内容が中文で上梓されている。その全てを紹介する余裕はないが、日本の現今の学会との比較で、注目点を以下要約する。
 まず、台湾の学会の海外情報咀嚼能力。北米留学組を中心とする本書では、80年代の日本を彷彿とさせるように、欧米の新思潮が紹介され、検討され、それのみならず独自の消化と昇華を経て、台湾の理論的可能性の現在を問う論考へと精錬されている。つぎに、その危機意識の高さ。周囲の国際的政治状況を勘案すれば当然かもしれないが、国内市場に内没し局蹐甚だしい日本の人文学術界とは異なり、台湾発の理論が世界の趨勢を塗り替える先兵の役割を果たす、という確固たる自覚と志が、行間にも横溢する。さらに発信への意欲。欧米日の学術を熱心に吸収したうえで、それらを世界の負の焦点たる台湾において統合して中国語・欧米語に翻訳・伝達する使命感が、現今の日本とは比較にならない。
 史書美はLorenzo Verncini韋拉契尼の「定居植民主義」settler colonializmに注目する。日本の植民者たちは敗戦後に台湾から退去したが、植民者の子孫が入植地に寄せる望郷の念は、西欧視点の脱植民地主義理論では見落とされがちだ。それに脱韓国・日本育ちの芸術家、白南準Nam June Paikの提唱したstatinary nomadを対置してはどうか。物理的には定住しつつ、電子技術による情報的放浪を実現した現代人の二重性。それをパイクは「定住する遊牧民」という用語に託したからだ。これはウンベルト・エーコの持論でもあったが、物理的定住と知的放浪の界面設計border designに、脱植民地克里奥爾理論の急所が潜む。
 Shih Shu‐meiを受け廖咸浩は「華人海洋」と「海盗」を鍵言葉に「後中国」Post Chinaの「別類現代性」other modernityを提唱する。「海賊史観」を提唱中の筆者としては、見事に一本取られた思いである。近年の海賊研究文献も広く渉猟したうえで、廖は「海盗文化与平滑空間」で德勒茲Deuluze瓜達里Guattari提唱の「平滑空間」を海賊の出没する海域に重ね、これを「条理空間」たる国際法秩序に統御された公海に対置する。そのうえで台湾の海盗文化の特徴を、内加勒斯丹尼Negarastaniを援用して「洞孔空間」と規定する。船に「中間往来」middle passgeの象徴を見る基爾羅伊Gilroyの議論も据えて、謝平Pheng Cheahの「商業普世主義」mercantile cosmopolitism、阿珀都頼Appaduraiの「後国家形態堅持」postnational forms of allegianceに接ぎ木する「跨国資本」Transnational capital論である。
 もはや総合学術雑誌が機能しなくなった日本よりも、台湾の書店に出向き、隣接配架された欧米書とともにこうした出版物を繙読したほうが、世界の学術状況を全般的・脱領域的に把握するには、はるかに都合がよい。逆に日本では、国籍別・学会別の縦割り内向が亢進し、隣国のこうした最新学術動向ひとつ満足に伝えらえない知的怠惰が蔓延している。






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