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評者◆前田和男
元陸自レンジャーの社会 活動家・井筒高雄の巻29
No.3289 ・ 2017年02月04日




■歴史的政権交代選挙に関わる
 2009年春、盟友の中川智子が急遽立候補した宝塚市長選挙に、同じく盟友の高砂市議・井奥雅樹と共に「市民派選挙お助けコンビ」として馳せ参じ、市民派女性市長を誕生させる一翼を担った井筒高雄だったが、その凱歌をじっくり味わう暇はなかった。
 それから2か月も経たない同年6月、またまた選挙応援の「お呼び」がかかったのである。今度は、人口22万人の市長選の約2倍の有権者を対象にした国政選挙。ところは、大阪府に隣接する尼崎市を全域とした兵庫8区。井筒・井奥の地元である兵庫10区からは電車で1時間半ほどである。
 折しも麻生太郎を首相にいただく自公連立政権は、アメリカのサブプライム・ローンに端を発したリーマン・ショック後の経済再生にことごとく失敗、内閣支持率は10%台に低落。9月上旬には任期満了を迎える衆議院の解散総選挙が迫るなか、各種世論調査では自民党の大敗による歴史的政権交代が起こるのではないかと予測されていた。
 当然のことながら、井筒も井奥も胸を躍らせて、「市民派選挙お助けコンビ」として、それにかみたいと思っていた。
 普通なら二人の地元である加古川市と高砂市を中心とする兵庫10区を「主戦場」とすべきところだが、そうできない事情があった。これまでも記してきたように、井筒は「煤塵問題」で加古川に工場をもつ神戸製鋼を厳しく追及してきた。しかし加古川は同社の「企業城下町」でもあり、ともに市議会に議員を送り込んでいる経営側にとってはもちろんのこと、労働組合側にとっても井筒は「煙たい存在」だった。兵庫10区では、公明の推薦を受けた自民現職の渡海紀三朗に対抗して民主党公認の岡田康裕(現・加古川市長)が2003年から立候補、勝てないまでも善戦をしてきた。今回は3度目の挑戦になるが、その選対の中心を担ってきたのが、神戸製鋼労働組合がイニシアティブをとる連合であり、煤塵問題の急先鋒である井筒とその盟友の井奥は、彼らからは歓迎されていなかったからである。
 であれば、喜んで受け入れてくれる選挙区がいいと、二人は、2004年の参院選挙でも、前回の2005年の衆議院選挙でも、大阪で土井チルドレンとして社民党から出馬した辻元清美の応援に県境をこえてかけつけた。辻元は、2002年に発覚した「秘書給与不正プール精算事件」で議員辞職。懲役2年、執行猶予5年の判決をうけながら、参院選挙の大阪選挙区(定数3)に挑戦するも惜敗。さらに翌年の衆議院選挙では公明の支援をうけた自民党公認の松浪健太に惜敗したものの、重複立候補していた近畿比例ブロックで復活して3回目の当選を果たした。これを下支えした「市民派選挙お助けコンビ」としては、十分に手ごたえがあり達成感もあった。
 そして、井筒と井奥は、辻元にとって4度目の挑戦となる今回も手伝うしかないと考えてはいたが、前回ほど力こぶが入らない。それは、ひとつには、今回は自民党への逆風もあって、二人が馳せ参じなくても十分に勝てる状況にあったからである。どうも二人には(特に井筒には)「勝てる選挙」は面白くない、どうせやるなら宝塚がそうであったような、「逆風を跳ね返す選挙」のほうがやりがいがあるという、一種の判官びいきの気概のようなものがあったのは否めない。
 そんな事情もあって地元から離れた兵庫8区での選挙応援には、なんとなく心を惹かれるものがあった。さらに、そもそもいわくつきの難しい選挙区であったことも、二人の“闘志”をいっそうかきたてたのかもしれない。
 問題の兵庫8区は、公明党の元幹事長で前国土交通大臣でもある冬柴鐵三が7期連続当選を果たしているという、全国300小選挙区のなかでも“異例”かつドラマに満ちた選挙区であった。「旧兵庫2区」時代から公明党は、少数野党でありながら常に1議席を確保していたが、1996年に小選挙区制になると、冬柴は当時小沢一郎が自民党を脱党して結成した最大野党の新進党へ参加して当選、1999年に自公連立が成立すると、今度は与党統一候補として自民の全面支援をうけて3回連続当選。一方で、その間、野党側は乱立によって、冬柴の独走を許してきた。まさに戦後政治再編のドラマを象徴する選挙区であった。そして、今回野党第一党の民主党は、候補の擁立で調整がつかず、政権交代のせっかくの好機であるにもかかわらず、ここ兵庫8区だけは与党候補が安泰の「無風選挙区」になるのではないかといわれていた。
 ところが、この下馬評が覆されるかもしれないというのである。
 井筒と井奥にその話をもち込んできたのは、新党日本の事務局を担う平山誠であった。そもそもは麻生政権がダッチロールをはじめた1年前、突如解散風が吹きおこり、各党とも選挙モードに突入。そんななか、前述の辻元の参院選で新党日本代表の田中康夫に応援に入ってもらったことが機縁で関係ができた平山から、「新党日本では兵庫8区と近畿の比例で立候補を検討しているので手伝ってほしい」と依頼があったが、具体的な立候補者名は示されなかった。そして、解散風は年末にはこれまた突如ぱたっと吹き止んでしまったので、井筒と井奥の二人は平山の話をそれほどリアルには受けとめなかったのだが、年が改まって春を過ぎたあたりから、またぞろ解散風が吹きはじめたところへ、再び平山から話があり、今回は具体的な名前が示されたのである。
 それを聞かされて、井筒と井奥は正直驚いた。
 なんと同党の代表の、「ヤッシー」ことあの田中康夫だというのである。
(本文敬称略)
(つづく)






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