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評者◆伊達政保
相倉久人氏の語りに歌謡曲論の真髄が展開されている
相倉久人にきく昭和歌謡史
松村洋編著
No.3283 ・ 2016年12月17日




■音楽評論の大先輩である相倉久人氏と真摯な音楽評論家の松村洋君が、「聴き語り昭和歌謡史」と題し連続対談を行うというので、これは必ず聞かねばと毎回聞きに行った。2012年3月から2014年6月まで全10回(オイラ所用で2回欠席)。松村君の精緻な下調べによる選曲と相倉氏の飄々たる受け答えが楽しみだった。エノケン、服部良一、戦時歌謡、美空ひばり、坂本九、クレージーキャッツ、アイドル歌謡、ニューミュージック、平成の〈昭和歌謡〉といった各回のテーマは、両者の相談によるものだったという。まさに松村君の言う、音楽から見た近代日本文化論となっていた。
 当然この対談は書籍化を前提に進められていて、何部かは書き起こしのパンフとしても発行されていた。しかし、途中で相倉氏は体調を崩して15年7月に亡くなられてしまった。書籍化も中断したが、このままこの対談を埋もれさせてはならないと、松村君がまとめることによって、相倉久人著、松村洋編著『相倉久人にきく昭和歌謡史』(アルテスパブリッシング)として刊行されたのだ。
 相倉氏の語りの部分はほとんどそのまま残したというこの対談を読み返すと、歌謡曲論の真髄がそこに展開されていた。これまでの歌謡曲論のほとんどが歌詞論であり、だが歌にはメロディがついている。しかしメロディと歌詞を一緒に論じただけでもダメであり、歌の音色、すなわち声質をも考えなければならない。同じ曲を別な歌手が歌うだけで、曲の表現が変わってしまうのだ。また歌謡曲は作詞、作曲、編曲、歌手を総合して表現されるものであるという。さすがジャズの現場に携わり、ロックからポップスを論じ、そしてレコード大賞審査員を長く務めた相倉氏だからこその見解だ。本書でソースデータが明示された曲を聴きながら、対談を読むとそのことがよく分かるのだ。
 ところで相倉氏の歌謡曲論は今に始まったわけではない。昭和40年代、五木寛之の短編小説『艶歌』が発表され、水前寺清子主演で映画化された。平岡正明氏が「艶歌試論」(『ジャズ宣言』所収)を書き、続いて相倉氏が「『艶歌』とジャズ」(『ジャズからの挨拶』所収)を書く。以後、森進一、青江三奈、クールファイブなどがデビューし歌謡曲黄金時代が到来、ついには藤圭子がセンセーションを巻き起こし、音楽ばかりか各方面の知識人総出で歌謡曲が論じられることとなった。番外で、ニュ一ロック派と相倉・平岡のジャズ・歌謡曲派との論戦などもあった。なかでも相倉氏の青江三奈や藤圭子ヘの偏愛ぶりは有名で、歌謡曲を聞くためそれまで必要なかったレコード・プレーヤ一まで買い込んだという。







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