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評者◆志村有弘
戦争を危惧する詩歌群――西郷隆盛の首の真相を描く柴垣功の歴史小説(「詩と眞實」)、路通への芭蕉の優しさや門人の嫉視を綴る大原正義の作品(「日曜作家」)
No.3276 ・ 2016年10月29日




■毎年、八月は戦争の悲劇を回顧し、戦争を危惧する作品が目につく。「現代短歌」二〇一六年九月号が〈夏休みの宿題「戦争と短歌」〉を特集。我々が読むべき戦争の空しさ・残酷さを詠んだ歌集・詩集などを軸として、諸氏が解説を加え紹介している。橋本喜典が取り上げた佐々木剛輔の歌集『棄民』には「ソ連兵に時計さし出しわれらを庇う男装の母声ふるわせて」の歌、島田修三が取り上げた窪田空穂の歌集『冬木原』の「学徒みな兵となりたり歩み入る広き校舎に立つ音あらず」の歌が悲痛極まりない。玉城寛子は「息絶えし母の乳房をまさぐる児目もくれぬ人ら戦場は修羅」(くれない第170号)と戦争の残酷さを歌う。
 「いのちの籠」第33号の発行所は、戦争と平和を考える詩の会。戦争の悲劇と起こりかねない戦争への危惧を痛切に訴える詩五十一編とエッセイ四編を掲載。梅津弘子は「決意の日」と題して、三月二十九日、国会正門前で友と「誰の子も戦場におくるな」と叫んだ夜、銃を持つ自分の夢を見たといい、夫から「七十のばあさんに/赤紙はこない」と苦笑されたが、「じゃ 誰に赤紙がくるの/誰にくるの」と、悲痛な疑問で結んでいる。そして、尾沼志づゑは「自由とは 自由とは」と題する「NO MORE WAR」の項に「単純な九条バアサンと言はば言へ戦争だけは絶対にノー」(層第124号)と叫ぶ。堀江雄三郎は詩「きくまいぞ」(コールサック第87号)で「よくもまあ/仰いましたね/想定外の出来事でしたと」で始まり、「彷徨い続くCsを含む核廃棄物/搬入拒否の強い声/「けーれ!くんなっ!」と老いの仲間が大合唱」と綴る。東日本大震災に伴う原子炉批判である。
 小説に移る。歴史・時代小説では、柴垣功の「南洲翁御首傳」(詩と眞實第806号)が読ませる力作。西南戦争のおり、西郷ら三人の首が転がった。一つは外園隼人の手で錦江湾に沈められ、あと二つは薩兵から山縣有朋に差し出されたが、どちらが隆盛の首であるものか判断がつかない。一度は首と胴体を見比べて切り口からこれが隆盛の首だということに落着するが、山縣の心に双方共に影武者の首ではないかという疑念が起こる。そして作品はもう一つの首が錦江湾底に眠っていることを「誰も、知らない――」と結ぶ。隆盛について登場人物の回想等で人となりが記されるが、隆盛自身が直接行動することはない。官軍の兵が山縣を勲章好みの「栄達のみを願う」男と批判する声も面白い。
 大原正義の「鬼のほそ道 俳諧道」(日曜作家第15号)が、芭蕉の門人路通の風貌を活写している。風呂に入らずに異臭をただよわす路通。芭蕉の門人からは忌み嫌われ、芭蕉が反古にした句を勝手に奥羽の俳諧師に伝えて芭蕉を激怒させたりする。作品末尾は許六が路通の顔を鬼のような面貌に描いたのは、意図的に悪意をもった「虚構」で、蕉門が爪弾きしたのは、「顔貌の醜さ」ではなく「ありあまる才能を妬んでの所業かも知れない」と結ぶ。天涯孤独の「乞食僧」路通に対する芭蕉の優しさがさりげなく描かれる。佳作である。
 現代小説では、小倉孝夫の「俺は猫である」(ペン第11号)が抱腹絶倒とまではいかないが、読んで楽しかった。作品の語り手は三歳の「俺」(雄猫)。俺には母と妹が二人(作者は「二人」と書いている)。一家の主人は定年後小説を書き出した。幼友達の評論家が主人の小説をこきおろし、そのあと二人は酒を呑みに行き、帰ってきた主人は再起不能に泥酔。そのうち「俺」の上の妹がいなくなり、母は事故死する。「俺」には父親がいないので、残った妹に恋する猫に「母子家庭は許さない」と強い口調で命令する。なぜ、干支に猫がないのかという「俺」の不満にも納得。自称「美男」という「俺」。猫の生態によく通じている。徹底した旧かな遣いで作品を展開しているのも、新鮮さを感じる。
 詩では、麻生直子の「父の絵」(潮流詩派第246号)が、自分の過去半生を根底に、とうに訣別した父への思いを振り切る姿勢。「男性不信のまま」に没した母への思いも。「父に認知されないこども」という表現が悲しい。坂本圭の「ゴンドラの唄」(詩遊第51号)は、「命短し恋せよ乙女」の唄に「はっと気づいた」のは「若い日に/私は恋をしたろうか/取り返しのつかぬ間違いを/自分が犯したことに」気づいたといい、「まなじり決して/日は過ぎて行つた/六十九歳」と結ぶ。微苦笑。芸達者な人だ。坂本の同誌掲載「風邪を引いた」も面白い。木津川珠枝の「春隣」(竜骨第101号)は「夕空は青とり戻し春隣 深見けん二」のサブタイトルを付け、野鳥誘致林での小さな生物へのこまやかな観察眼を示す。小動物に対する人間の姿、末尾近くに老人が取り出した五十円硬貨が何年の鋳造かを訊かれる場面など、さりげない光景なのだが、不思議に心に残る。
 このたび、「イルカと錨」、「逍遥通信」、「はるにれ」、「夜咲う花たち」が創刊された。同人諸氏のご健筆・ご活躍をお祈りしたい。「季節風」第109号が小澤正義・花村守隆、「潮流詩派」第246号が藁谷久三、「塔」七三九号が廿日出富貴子、「風姿」第9号が氏家昇の追悼号。ご冥福をお祈りしたい。
(相模女子大学名誉教授)






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