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評者◆栗田明子
日本の本とともに世界へ――これから世界を舞台にして出版に携わっていこうとする人には、日本の本の読み手を自分で育てていくという気概をもってほしい
海の向こうに本を届ける――著作権輸出への道
栗田明子
No.3049 ・ 2012年02月11日




▲栗田明子(くりた・あきこ)氏=兵庫県生まれ。甲南女子高校卒業後、商社や出版社を経て、著作権代理店日本ユニ・エージェンシーに勤務。81年、栗田・板東事務所を設立。 84年、同社を発展的に解消し、日本著作権輸出センターを設立。現在同社相談役。

 35歳で単身渡米、日本で初の著作権輸出エージェントを設立、世界中を駆けめぐって著作権取引に携わり、日本中・世界中の名だたる作家や編集者と交流を重ねる……。『海の向こうに本を届ける――著作権輸出への道』(晶文社)は、日本における著作権取引の第一人者である栗田明子氏の自伝である。
 「63年にタイム・ライフ社に秘書として入社し、その後日本ユニ・エージェンシーの社員という肩書きで、ニューヨークの出版社を回る機会を得、日本の出版社を売り込む可能性を探りました。その後、栗田・板東事務所を設立し、ケルンを拠点にして本格的に日本の出版物を海外に売り込む仕事を始め、フランクフルト国際図書展やボローニャ国際児童図書展などに参加して世界中を回りました。『子どもの本の世界』や『七つの屋根の下で――ある絵本作りの人生』の著者で世界的に有名なベッティーナ・ヒューリマンさんなど、出版界で伝説的な名声を誇る方々にも多く出会うことができました。」
 版権取引という言葉には堅苦しいイメージもつきまとうが、本書には思わず笑顔になってしまうような「幸運な出会い」のエピソードが数多く盛り込まれている。
 「小川洋子さんの本はフランス語翻訳が先に出ていたのですが、アメリカへの売込みには苦戦していました。しかし、あるアメリカのエージェントに、たまたまフランス語を読むことのできる社員が居合わせていて、小川さんの本に魅せられた彼女の熱心な働きかけにより、無事成約したこともありました。」
 熱意が人を動かすという好例であろう。しかし、一冊の本を海外の読者に届けるには、著者・翻訳者はもちろんのこと、両国の編集者・版権エージェント・書店員など、多くの人が関わらなくてはならない。個人の熱意や偶然の出会いだけでは、安定して読者の手元に届く本を作ることは難しいようだ。
 「例えば星新一さんのショートショートは数多くの人が訳していますが、科学知識や日本文化への理解など、翻訳に必要とされる知識は長篇以上ともいわれており、出版にたえられるものはほとんどないのが現状です。また、翻訳料が安いため、大学の先生が熱意だけでやっている場合が多いのですが、かれらは実績作りのため、訳書を大学出版会から出したがる傾向にあります。大学出版会の流通力はどうしても限られているため、本が出来上がっても、せっかくの翻訳がほとんど読者の目に触れないということも見受けられます。」
 かつては「紳士淑女のビジネス」と呼ばれた著作権取引も、80年代に入って大きな変化を迎えたという。
 「以前の国際ブックフェアには、出版社の編集長クラスが参加するのが普通でした。ですから、取引する本を実際に手掛けた人の顔を見ながらじっくりと話を聴くことができました。しかし80年代以降、編集者ではなく版権取引の担当者が参加することが一般化してからは、本というよりは商品を取引する感覚の方が強くなってしまいました。版権担当者は本の制作に関わっていませんから、一冊一冊に対する思い入れも薄く、以前のような「打てば響く」感覚がなくなってしまい、作り手の顔がどんどん見えづらくなっている印象があるのは残念なことです。」
 氏はキャリアを通じ、『ひろしまのピカ』など、原爆や戦争の惨禍を扱った本も多く手がけてきた。その根底には、広島への修学旅行での被爆者の方との出会いがあるという。
 「人ひとりができることはとても限られているとは思うのですが、原爆の惨さを世界に訴えたいという願いはずっと持ってきました。『ひろしまのピカ』を売り込んだときも、「絵本の一番の買い手であるおばあさんや図書館員に、残酷な描写のある暗い本は売れない」と言われてしまい、出版に難航した国もありました。しかし、在シンガポールの凸版印刷の方や、出版社である小峰書店の方の強力なご支援をいただいたことと、小さな草の根出版社などが出版元を引き受けてくれたことなどもあり、八カ国での共同制作によって二万部近くを刷ることができたのは大きな喜びでした。原爆、原発、それに沖縄の問題は、根底のところですべてつながっています。声高に叫ばなくても、いろいろな作品を通して、そのメッセージを訴えていきたいと思っています。」
 国際的キャリアウーマンの草分けともいえる栗田氏。日本を飛び出して仕事をしてみたいと願っている若い世代、出版の世界の後輩たちに何を期待するのだろうか。
 「自己アピールももちろん必要ですが、出会う人一人ひとりを大切にしながら、相手との信頼関係を築くことが一番大事です。これから世界を舞台にして出版に携わっていこうとする人は積極性をもって、日本の本のファンを自分で増やす、日本の本の読み手を育てていく、という気概をもってほしいと思います。」







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