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評者◆秋竜山
彫刻だよ人生は、の巻
No.3241 ・ 2016年02月06日




■芸術家の発想は凡人には解釈不可能にまで大飛躍するものだと思う。と、同時に、これはマンガ家の専門とする大発想ではあるまいかとも思える。若松英輔『生きる哲学』(文春新書、本体八〇〇円)で、天才彫刻家・舟越保武さんのことが書かれてある。舟越さんが彫刻するということは、マンガみたいな作業をするということだ。そんなことを舟越さんが述べているのであって、フツウの彫刻家がいったりしたら、「なんだ、この彫刻家は寝ぼけているのか」と、思われたとしても文句はいえないだろう。舟越さんともなれば「さすが、すごいことをいうなァ」となってしまう。
 〈「顔」は、彫刻家舟越保武の主題である。「顔」以外の像をつくらなかったわけではないが、作家としての初期から最晩年まで、舟越は「顔」を彫り続けた。彫るという営みに関しては、舟越は一風変わった認識を抱いていた。エッセイで彼は、次のように書いている。――不定形の荒石を前にして、この石の中に、自分の求める顔が、すでに埋もれて入っているのだと自分に思い込ませて、仕事にかかるのだが、石の中にある顔を見失うまいとする心の緊張があった。作業としては、中にある(と思い込んだ)顔を包んでいるまわりの部分を取り除けば、顔が現れて来る訳だ。言葉として簡単だが、いざ彫りはじめると、石彫の技術と、その工程に邪魔されて、中にある形を見失いそうになる。たしかに見えていた筈のその顔が、私の前に現れるのを恥じらって、なかなか現れてこない、作業はいつも捗らなかった。(「石のかけら」)〉(本書より)
 石の中に、すでに完成された作品が息をひそめて、取り出されるのを待っているというのだろうか。それを取り出すのが彫刻家の仕事か。だとしたら彫刻家でなくて素人でも、その石から彫り出せばいいのではないか!! なんて、思ったりしたら、なんにもわからないバカの発想だろう。本書では、著者若松英輔さんが、もっとわかりやすく解説されている。
 〈彫刻家の仕事は、石に像を刻むことではない。石から像を彫り出さねばならない、というのである。彼の言葉を借りれば「すでに埋もれて入っている」何ものかを掘りおこすことが、彼にとっての造形だった。彼にとっては芸術活動とは、創造であるよりも発見だったといってよい。それは、何かを生み出すことではなく、隠れているものを掘り返す行為だった。彫ることは彼にとって生きることと同義だった。私たちの多くは、そうした人生を送っていない。しかし、生きるということもまた、何かを「彫る」ことに似てはいないだろうか。それはやはり、創造であるよりも、大いなるものの発見なのではないだろうか。〉(本書より)
 このような文章を読んでしまうと、間違いなくこのことを思い出してしまうだろう。石を見るたンびに、「サテ? この石の中にはどのような作品がひそんでいるかな」。よくある(ひとこま)マンガだが、巨大な石に彫った作品、もう一ふりノミを入れれば完成という時。もしかすると、ノミを入れなくてもよかったのかもしれない。ノミが入った。その瞬間、アア……なんたることか。その巨大な作品が真っ二つにわれてしまった。これこそ石の彫刻である。






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