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評者◆大矢靖之(紀伊國屋書店新宿本店)
抵抗とは肯定性への契機である
ジル・ドゥルーズの「アベセデール」
國分功一郎監修
No.3227 ・ 2015年10月24日




■今年3月に開催された日仏哲学会において、全研究発表のうち半数近くがドゥルーズについての発表だったことは印象的だった(評者は修士時代に日仏哲学会会員となり、今も籍を置く)。ドゥルーズ研究の活況を示しているようにも思われる。その時軽く驚かされたのは、知人の一人がドゥルーズについての発表に本人の映像インタビューを引用し、参考文献に挙げていることだった。哲学研究においては、本人の著作、テクストを一次資料として典拠にするのが一般的であるように思われる。聞けば、ドゥルーズのインタビュー映像は今や、著作とほぼ同格に扱われているという。そして、その日本語への翻訳もまもなく発売されるだろう、とも。
 その時のインタビュー映像が、『アベセデール』である。アルファベットごとにテーマを決め、映像中、自らの教え子であるインタビュアーの質問に答えながら、ドゥルーズは語り続けていく。足組みをしながら、時に身振り手振りが入り、紆余曲折、雑談めいたことを表情豊かに交じえながら。本作品付録、國分功一郎氏の解説によれば、これはドゥルーズが自らの思想を語るドゥルーズの映像であって、彼の書物と並べて論じられるべき作品だという。先の研究発表でこの作品が用いられる所以であろう。『アベセデール』の研究上の位置付けについて論者によっては異論も寄せられることだろうと想像するが、ここではその問題に立ち入らず、もう少し本作品の内容を敷衍したい。
 ドゥルーズは驚くほど平易に明瞭に、生き生きと自らの思想の核心に繋がるものを語っている。元々テレビ放送用に撮影されたこともあるだろう。話はしばしば脱線しながら、脱線内容が異なる問題系と有機的に結びつきさえする。ゆえに、流れるように展開されるインタビューのチャプターそれぞれが、大きな喚起力を持っているのだ。付録に「各項目解説」があるので、詳細はそちらに譲り、評者が感銘を受け思考を喚起させられた箇所を不十分ながら展開してみよう。R、「抵抗」(Resistance)のチャプターについて。ドゥルーズは「創造することは抵抗すること」という。彼によれば、偉大な科学者、数学者、芸術家も、様々な妨害、誘惑、世論から自らのリズムを守って何かをつくる創造者であり抵抗者である。では哲学はどうか。哲学は愚かさに抵抗することだというニーチェの語りを引きながら、ドゥルーズは哲学が愚かさの拡大を防ぐ役割を担っているのだと語る。昨今、思想の死、哲学の死に言及する人々もいるが、ドゥルーズによれば、それらが自然に死ぬということはありえない。何者かによる殺害があるだけである。しかし、妨害や殺害があったとしても、別の何かが哲学の役割を引き継ぎ、哲学となりうる――ゆえに、哲学は死なない。そうドゥルーズは言い切る。項目解説が語るように、我々は否定的なものから逃れることはできないのかもしれない。しかし、その否定性に抵抗し、打ち勝ち、肯定性に至ることも可能であるとドゥルーズは語っていないだろうか。抵抗とは肯定性への契機である、と。評者は、「抵抗は希望に他ならない」というルネ・シャールの言葉を想起する。
 『アベセデール』はドゥルーズ本人によるドゥルーズ思想への入門として、大変に見応えのある作品であった。何時間にも及ぶ在りし日のドゥルーズの姿と肉声は、見聞きする人々に力強い呼びかけを行ってくれているように思う。応答し、思考し、哲学するよう、我々は促されているのではなかろうか。







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