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評者◆小嵐九八郎
二十年、三十年と残る歌集
念力ろまん
笹公人歌集
No.3223 ・ 2015年09月19日




■“戦争法案”の攻防は九月にピークを迎えそうで、大老人になった俺は真夏に体力を温存し、秋風が吹いたら街角へ、国会へと足を向けようとしおらしい気分で待ち構えている。
 こういう最中にどんな歌を若者や中年が作るのか――というのも邪道ながらかなりの楽しみだ。寺山修司の《マッチ擦るつかの間海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや》は60年安保より前に出た歌集『空には本』にある一首だけど“祖国”の感覚がない当方の世代にも、なお、あれこれ考えさせる。ましてや“祖国”のために戦争に否応なく巻き込まれてしまう青少年には切実かも知れぬ。
 ま、こういうどでかいテーマに近頃の短歌は苦手らしく、せっかくゆるゆるとピークへ登っているのに終わりの結句でイメージが逆転どころか非和解性へ行く技術や、どうでもいい末端感覚が大袈裟に拡大される技術とか、話し言葉の技術は進歩していて大老人は戸惑う。もっとも、この技術は短歌の器を大きくするし、作り手を増やしていくのであるから負だけではない。
 それにしても寺山修司が大テーマのみならず、学生運動の沈滞期の一九六五年頃に《かくれんぼの鬼とかれざるまま老いて誰をさがしにくる村祭》を『田園に死す』の中で歌っていて、俺などは義理人情を外して長生きしてしまい、それが「かくれんぼの鬼」「村祭」を生かして使い切っている土俗の中の現代精神に、まだ驚いたままだ。
 最近、歌人の笹公人氏の歌集『念力ろまん』を読んだ。かつて『念力家族』という、誰でも潜る少年から青年の狭間の、女性に焦がれて涎を垂らし、妹の不可解性や学校という檻への反抗を歌い、それが近頃はNHKのEテレで連続ドラマ化されているのだが、その笹公人氏の最新歌集である。《三郎に憑きたる狐逃げ去れば鳥居の朱を塗り直しけり》(p.36)という、おどろおどろした土に読み手を引きずったり《こんぺいとう散らばる庭に干されいて座敷童子のちいさな布団》(p.62)と既に失くしたのに今が現われる世界を出してよこす。活字苦況の現代では珍しく二十年三十年後には値のつく歌集となるであろう。







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