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評者◆久禮亮太(元・あゆみBOOKS小石川店)
「生き方の哲学」の書
本当の戦争の話をしよう――世界の「対立」を仕切る
伊勢﨑賢治
No.3194 ・ 2015年02月14日




■遠い国のことと思っていた紛争やテロが、私たちの日常と直接つながってしまった。私たちの日々の消費生活自体、世界経済に直結している。個人の生き方の選択一つ一つが、世界の揉めごとのすぐそばにある。どう考え行動すれば、対立をこじらせないで生きられるのか。そんな日常を生き抜く知恵にあふれた本です。
 著者は、国連や国際NGOの職員として東ティモールやシエラレオネ、アフガニスタンなどの紛争地の「今、目の前にいる人間が大量殺人の責任者で、自身も実際に手をかけているのがわかっているのに、笑顔で話し合わなければならない」という現場で、武装解除から社会の再構築までを取り仕切ってきた実務家です。自身の発した命令の結果、「たかだか10名ぐらいの、補給路を断たれて敗走する敵を、武装ヘリも使って総出で追い詰め、全員殺してしまった」など、「平和をつくる現場」の経験を功罪あわせて率直に語ります。
 また、「平和と紛争」学を研究する大学人でもあります。「人文系の学問すべてに対して、もし戦争という人間性に反する行為を、未来に向けて回避しようという動機がなかったら、学問に何の意味があるのか」と平和の理想を語る一方、「戦争を悪として糾弾し、真正面から対抗することが、本当に戦争の予防につながるのか。それは、もしかしたら戦争に付き物の「武勇」反動でいきり立たせ、逆に戦争する動機を煽ってしまう……そんな葛藤」を、世界の発展途上国からの留学生たちと考え続けています。彼ら次世代のリーダーたちと研究を共有すること自体が、紛争予防の実践なのです。
 本書は、紛争の現実を当事者の視点から詳細に綴ったルポルタージュとしても読み応えがあります。リーダーシップやガバナンスをめぐる現場の実践知を学ぶビジネス書とも読めます。私は、生き方の哲学だと捉えました。では、本屋らしく、この本と一緒にどんな本を平台に並べようかと考えてみました。
 まず、『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』(加藤陽子/朝日出版社)。グローバリゼーションや大国のパワー・バランスという精緻な関係性という、横に広がる伊勢﨑さんの視点に対して、こちらは近現代の日本がなぜ戦争に至ったのかという歴史を掘る縦の視点を補完します。どちらの本も高校での授業を基にしていて、生徒たちの率直な質問にプロが本気で対峙したライブ感があります。
 次に『来るべき民主主義』(國分功一郎/幻冬舎新書)。伊勢﨑さんは「個々の人間が日常生活のなかで、自分自身と家族の安全を希求する本能的な欲求」と「戦争という国家の政治判断」が、実は直結しているというメカニズムを「セキュリタイゼーション」という国際関係学の手法で解説します。個人の抱える漠然とした不満や恐れが国家のプロパガンダに回収され動員されていく、それが戦争であれ脱原発であれ(善悪にかかわらず)、冷静な議論がなければ、誰かを排除し対立が先鋭化する。いっぽう國分さんは、小平市の道路建設に反対する市民運動に参加した経験から、住民参加型の民主主義を実現する困難と可能性を語ります。併読すると、他国の紛争も小さな日常の課題も地続きだと思わされます。
 最後に、『愛するということ』(エーリッヒ・フロム著、鈴木晶訳/紀伊國屋書店)。愛は自明のものではなく主体的に習得するべき技術だと言ったこの名著を再読し、人間関係を原点から考えてみたいのです。「愛とは、特定の人間にたいする関係ではない、愛の一つの「対象」にたいしてではなく、世界全体にたいして人がどう関わるかを決定する態度、性格の方向性のことである」。フロムはこう言います。
 「人権が尊重される戦後をつくることが大切なのは当たり前ですが、目指すべきは、それがあって当然と、人権にその社会を支配させようとするのではなく、その場、その時に合った人権をつくってゆくことだと思うのです。……これをすこしでも気に留めておけば、人権に悖る敵、もしくはそのように喧伝される敵が現れたとき、必要以上にコテンパンにしちゃうことを防げるような気がするのです」という伊勢﨑さんの言葉と重なります。






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