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評者◆第五回 児童書出版の歴史と、日米の書店と図書館の関係――偕成社・今村正樹代表取締役社長
図書館には次の世代に本を残すというミッションがある――高価な本が図書館に1冊あって、必要とする学生が使用できる状態こそが社会インフラとしての公共図書館
No.3182 ・ 2014年11月15日




■海老名市立中央図書館は10月11日、第5回「出版社と図書館をつなぐ」講演会(企画・図書館流通センター)を開催し、偕成社の今村正樹社長が日本の児童書出版の歴史や日米の書店と図書館との関係などについて語った。今村社長は、取次会社や郊外の新興書店が流通コストを下げるために人文書などの出版物を売ろうとしなくなっている現状を説明し、「公共図書館は人文書などを率先して購入してほしい」と要望。さらに、出版界にはびこる無料貸本屋論を払しょくするためにも、「図書館は次の世代に本を残していくというミッションを十分に考えてほしい」と訴えた。講演要旨は次の通り。

■学校図書館とともに成長
80年代に出版バブル突入

 偕成社は創業1936年、2年後には80周年を迎える、出版界の中でも比較的古い出版社。初めから児童書専門として出発したわけではなく、戦前は経済関係の書籍を出版していた。戦後になって、児童書の専門出版社として再スタートした。
 53年に、独占禁止法の除外規定で出版物などの再販制度が認められたほか、学校図書館法の制定、NHKの放送開始など、子どもの本をめぐる大きな環境変化が起こった。中でも学校図書館法の制定には大きな意味がある。戦前に学校で使用していた軍国主義的な資料が使えなくなったため、子どもの教育のために新しい資料が必要となった。そこで、学校図書館の整備が叫ばれるようになった。それに乗じて、子どもの本の専門出版社がたくさん生まれた。しかも、必ず買ってくれる市場があったので各社競って本をつくった。
 ただ、当時の本はとても高価だった。他の生活物資と比べると、現在のおよそ6~10倍くらい。だが、読者はそれにもかかわらず、書店で本を買ってくれた。中でも子どもの本は特別扱いで、商店街の老舗書店の入口には必ず児童書が並べられていた。おそらく当時の書店の売上の10%を占めていたのではないだろうか。今は4%を切っている状況だが、当時は多くの書店が児童書を売ってくれた。
 一方、学校図書館が設置されたことで、直接図書館に本を売ろうと比較的早い段階で児童書出版社が「同行巡回販売」を始めた。これは地方の小・中学校を顧客にもつ書店さんと一緒に出版社の営業が見本を積んで、学校の先生に直接売り込むという営業活動。メリットは、予算があるうちに他社よりも早く自社の新刊を買ってもらえること。そのうち、小出版社が全国の学校を回るのは大変ということで、10の出版社が集まって、各社の見本を車に積んで新学期の5、6月に全国の学校を回るようになった。これは今も続いているが、週休2日制などで忙しくなった学校の先生が本を見る時間がなくなり、1日1校を回るのが精一杯になってきた。4、5校回れた昔に比べ効率は悪化し、この売り方も限界に来ている。
 このように子どもの本は学校販売を通じて成長してきた。当初は学校図書館向けの児童書が得意な出版社、書店店頭向けが得意な出版社と分かれていたが、80年代にはほとんどの出版社が学校にも書店にも売るようになっていった。
 児童書の内容は50年代から急速に変わっていく。絵本に関しては、岩波書店や福音館書店をはじめとして、当初は海外絵本の翻訳が主だった。だが、福音館書店が創作絵本をつくり始め、日本オリジナルの児童書(読み物・絵本)が出始めた。とくに理論社は創作児童文学の分野を切り拓くという大きな仕事をされた。
 70年代に入ると、各家庭を巡回販売するグループも生まれてきた。また、その頃から普及した割賦販売という制度によって、百科事典や美術・音楽全集などと一緒に子ども本の全集が各家庭にも広まっていった。こうした70年代の伸長は80年代も続き、いわゆる出版バブルを迎えた。出せば売れるという、やや問題な時期。当時の新刊の初版部数は8000部で、発売から2年のうちに、2~3回は重版されて2万部に達する企画が多かった。今では初版は6000部、2年以内に2万部いくものなんてわずか。その意味では隔世の感がある。
 出版バブルの中、児童書は91年を頂点に92年以降は落ち続ける。業界全体では96年が頂点だが、児童書はそれよりも早かった。その理由の1つが少子化問題。出生数は200万人を超えていたが、今では半分の100万人。さらに、テレビをはじめとする本以外の教育・娯楽の多様化で子どもの本の売上は落ちた。
 しかし、90年代以降に状況が変わってきた。公共図書館の増加である。店頭で売れなくなった本を下支えするかたちで、公共図書館やその分館である児童館が増え、公共図書館市場が大きくなっていった。とくに、子どもの本は消耗が激しく、次々と壊れて買い替えてもらえる。文芸出版社が指摘している複本問題は児童書出版社では影響なく、公共図書館と良好な関係を保っている。

■返品削減の陰で専門書が窮地に

 図書館と書店の関係について、まずアメリカの事例を見てみたい。私は80~82年に、ニューヨーク州のシラキュースという人口30万人の街にある大学に留学していた。荒れたダウンタウンには一軒だけ老舗の書店が残っており、5つくらいあるショッピングモールには、当時チェーン展開をし始めたウォールデンブックスとBダルトンという書店のどちらかが入っていた。基本的に、そういう書店が出てくる70年代まで、アメリカ人は書店で本を買っていなかった。ほとんどの人は公共図書館で本を読んでいた。
 80年代に入って急速に書店に行く人が増え、90年代に入ると、ボーダーズやバーンズ&ノーブルという大型書店ができ、アメリカの書店市場というものが成立した。だがそれも、アマゾンの到来によって短期間に終わる。ボーダーズは潰れ、バーンズ&ノーブルも元気がない。これらの書店の出店で地元の独立系書店が潰れたうえ、その張本人のボーダーズが潰れて、書店のない街がアメリカでは増えている。ふらっと本を手にする場所がなくなっている。それをアマゾンが補っているのだろう。
 日本でもこうしたアメリカ的な現象が起こっている。空洞化現象が進んで、軒並み古い商店街はシャッター街になり、郊外のショッピングモールが繁栄する。その中にはナショナルチェーンの書店が大型店を出す。だが、その店は老舗の大型書店のような、ガッチリとした専門書を中心にした品揃えとは明らかに異なる。そのような本はショッピングモールの書店では売れないし、店に売る気もない。
 この売る気がないというのが問題。いま、雑誌が売れなくなったことで、トーハン、日販(日本出版販売)を中心とする取次は書籍の売り方を変えてきている。取次は流通コストを下げるために返品を減らそうとしている。返品を減らすために売れるものを送って、あまり売れないものは扱わないという状況になっている。500坪、600坪という大きな売り場であっても売れるものは置くが、売れないものは置かないという状態になってしまった。

■コストの3倍はもう限界!?
初版部数激減で定価高騰か?

 日本の本がアメリカの本より安いのには理由がある。日本は、製本・印刷・紙代・人件費・印税などの直接コストの3倍の価格を定価とする。これは書店市場があるという前提での値付けになる。アメリカは図書館を市場として想定しているので、本の値段は直接コストの5~7倍に設定していた。日本で翻訳した本と原書を比べると、輸送コストを除いても原書の方が高いだろう。
 最近では日本でも相当高い値段を付ける出版社も出てきた。3倍の値付けではやっていられなくなったところもあるのだろう。出版は初期投資にお金がかかる。それを初版の値付けに反映させるのだが、初版部数をどれだけ製作できるかによって変わってくる。うちでも、初版部数は6000部に落ちており、これからはさらに落ちるかもしれない。そうなると、初期コストを消化するために、どうしても定価を高くせざるを得ない。人文書が5000円、6000円という価格になっているのはこれが原因。本が売れなくなって価格が上がるという悪循環が起きている。
 初版部数が減っているのは、取次が取らないから。かつては初版部数の8割くらいを全国の書店に配本してくれた。しかし、今は返品を減らすために極端に仕入れ部数を少なくしている。そうなると、初版部数を減らさざるを得ない。
 そこで強調したいのが公共図書館の役割。とくに地味な人文書その他に関しては図書館に率先して購入していただき、基礎的な初版部数を支えてもらいたい。ただ、これもなかなか難しくて、いわゆる無料貸本屋論というものが出てくる。図書館がハードカバーの初版の本を多数購入(複本)することで、初版が書店で売れなくなると文芸系の出版社が怒っている問題だ。
 自治体としては、税金を納めてもらっている住民に対して還元しなくてはいけないという意識を強く持っているだろうし、その考えにも一理ある。しかし、図書館のミッションというものをもう一度考えていただきたい。いま我々が使っている道路や橋、そして図書館などの社会インフラは先人が築いたものを受け継いで利用している。次の世代に残していくという意識がないと社会インフラは維持されないのではないか。5000円、6000円の本を家庭では買えないが、図書館に1冊あって必要とする学生が使用できるという状態になっていることこそが、社会インフラとしての公共図書館ではないだろうか。
 出版社は暇つぶしの本だけを出して偉そうなことを言うなという利用者の意見ももっともだが、出版社は出版の使命を考え、図書館も出版社がつくった本を次の世代に残していくというミッションを十分に考えて、これからの出版の難しい時代を乗り切っていく必要がある。







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