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評者◆はにぃ
バブルの時代と共に成長していく一人の女性のせつない物語
その手をにぎりたい
柚木麻子
No.3169 ・ 2014年08月02日




選評:一つの小説が多面的であることを浮き彫りにし、かつその小説が一人の小説家という「多面体」の中(あるいは外)でどのような位置にあるのかを、短い字数でサラッと提示するのは案外難しいことです。このレビューは、自分の体験と重ね合わせ、この小説の「多彩さ」をあらわしています。
次選レビュアー:有坂汀〈『筋と義理を通せば人生はうまくいく』(宝島社)〉、ふーろん〈『車輪の下で』(光文社古典新訳文庫)〉



■栃木から上京し、25歳を目前に故郷に帰りお見合いするつもりだった主人公の青子。勤務先の社長に「送別会だよ」と、座るだけで3万円といわれる高級鮨店に連れて行ってもらった。その店で、若い職人から白木のカウンターごしに握りを直接手渡され、刺身を載せただけではない「仕事」をされている鮨を食べ、衝撃を受ける。その鮨の味と、職人の手に惚れ込んでしまった青子は、急遽田舎に帰ることを取りやめ、不動産会社に転職する。そして、慎ましい生活をしながら、青子はその鮨屋に通い続ける。客と職人、カウンターをはさんでの対応。想い続けても、それ以上の関係にはなれないのだ。「ヅケ」も知らなかった田舎から出てきた大人しいお嬢さんが、仕事に打ち込んでいくうちに、いつしか華やかな都会の女性へと成長していく。1983年に初めて鮨屋を訪れた日から1992年までの、一人の女性のせつない恋愛と成長の物語である。
 まず、今まで読んだ柚木麻子さんの小説と違い、「浮わついた感」が全く感じられないことに驚いた。「ランチのアッコちゃん」「伊藤くんAtoE」などでは、その「浮わついた感」が小説の面白さを加速させていたのだが。文壇暴露小説でもある「私にふさわしいホテル」の推薦文で、辛口書評家の豊崎由美さんに「ユズキ、直木賞あきらめたってよ(笑)」と言われていたが、もしかしたら「ユズキ、本気で賞を狙ってるってよ」なのかもしれない(現在「本屋さんのダイアナ」で直木賞にノミネートされているので、そこで受賞するかもしれないが)。
 そして、この小説の舞台となっている1983年~1992年といえば、バブルの夜明け前から崩壊までである。「ルンルンを買っておうちにかえろう」、ユーミンの曲、銀座のホステスやチャラい広告プランナー、地上げ、そしてバブル崩壊。変貌を遂げる東京の街や当時の風俗がそこかしこにあふれ、その当時を知る者としてはとても懐かしい。その頃のあんなことやこんなことを思い出し、感傷的になってしまった。
 柚木さんは1981年生まれというからあの時代を体感していない分、第三者の目から冷静に描けたのかもしれない。バブルに染まり、どんどん痛々しくなっていく主人公には共感できないものの、鮨の描写が細かくて食べたくなるグルメ小説。当時の風俗を描くバブル小説。せつない恋愛小説。そんな多彩な顔を持った小説でもある。
(本が好き!掲載日:2014年7月3日)







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