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評者◆稲賀繁美
透視図法的master narrativeの彼方へ――「全球的世界美術史」構想とその陥穽(3)
No.3150 ・ 2014年03月15日




■女性史から空間把握の話法narrativeに視点を転じてみよう。透視図法linear perspectiveの場合が、問題を浮き彫りにする。人類は人種を問わず、西欧ルネサンスが発明したこの空間表象図法を学習する能力に普遍的に恵まれている。だがそれを知的に習得できることと、それが美的な満足をもたらすか否かは別問題である。ここに、危険な生物学的決定論へと逆行しかねない、神経系美術史学の誘惑に抵抗する足場を見定めたい。建築学や美術史学の領域に注目するならば、世界各地の文化が、この西欧原産の透視図法という技法の洗礼に晒されて、いかなる反応や反作用を惹起したかをつぶさに比較点検してみるのも一興だろう。
 これは政治学ならば民主主義が世界各地でいかに変奏されたかの比較研究、文学ならば小説という物語形式の世界的伝播と地域的抵抗というかたちで、フランコ・モレッティが企画した比較文学的課題にも重なるだろう。ヘーゲルに遡る進歩史観の残滓は、ここで文化圏それぞれの時代精神を発見し、個別精神現象学へと焼き直されることになる。
 逆説的にも、アジア的停滞という先入観は、西欧の衝撃に晒されたアジアやアフリカという現場からの揺り返しによって反証される。世界各地へ伝播したはずの西洋文明は、伝播の到達点から、思わぬしっぺ返しを食らい、予期せぬ反撃に晒される。数世紀の簒奪の歴史の後、今や移民たちが嘗ての帝国の首都を闊歩し、頂点の頭脳労働から底辺を支える肉体労働に至る振幅を生きている。それが、「脱植民地主義」の今日の世界状況ではないか。
 ここで議論の出発点に戻りたい。「紙破り」で画面という作品存在の前提を否定してみせた「具体」の村上三郎は、中が空っぽの額縁作品をも作っている。題して『すべての景色』。真峯朋子が示したとおり、視点が変わればその額縁が切り取る風景も無限に変化する。そこには潜在的にすべての風景が映りうる。だが誰もそれを同時に同一視点から捉えることはできない。ここに透視図法による統一的なmaster narrativeの限界が露呈する。そしてここに、ポストモダン以降の全球的世界美術史の可能な姿が、縮約されているはずだ。







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