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評者◆小嵐九八郎
凄みがあり、面白い以上に考え込ませる
晩年様式集
大江健三郎
No.3144 ・ 2014年02月01日




■去年のクリスマス・イブの『日刊スポーツ』によると福島の第一原発では、メルトダウンした核燃料を冷やす水は汚染水タンクに入りきらずに海へと流れ込んだままとあり、首相のオリンピック招致総会での「コントロールされている」の言葉は、現場の人による「作業員が減り、おまけにスキル不足で、解決、完遂はむずかしい」旨の話で明白に虚構と解る。
 こんな状況なのに、俺は去年、反原発の集会に行ったのは一回こっきり、首相官邸周辺の金曜の抗議と経産省前テントに励ましに行ったのは三回だけ。我ながら、不甲斐ない。特定秘密保護法案については、国会前で反対の意思表示したのは一時間半のみ。一九四四年生まれの当方だが、若い頃には二年半、全ての集会とデモの皆勤をやったこともあるのに、今や躯が動かない。霞が関が自宅と仕事場から遠い。
 そこへいくと、一九三五年生まれの大江健三郎氏は、反原発へと炎天下でも、集会・デモにきっちり、きりりと立ち上がり、参加している――実際は集会・デモの後に倒れたりしているらしいと、新刊の『晩年様式集』で厳しく推測できる。特定秘密保護法案でも、絶対反対の態度をまなじりを決して表明している。「私ら」は大江健三郎の魂の万分の一でも吸いたいもの。権力者に舐められている屈辱をバネにしたいもの――俺がこう書くとちいーっとアジビラ風になっちまうけど。
 その大江の『晩年様式集』、一筋縄ではいかぬ内容である。「徒然なるひまに、思い立つことを書き始めた」と御本人が記す通りなのか。私小説の極の上に、変化球を投げたのか。最近読んだオランダ生まれのフランク・ヴェスターマン作のノンフィクションの『アララト山 方舟伝説と僕』の然りだったが、他人、いわんや大作家の家族や森の周辺への誘いや、文明論、今までの小説の総括をどう考えているのかの俺の覗き趣味まで孕み、読了するのに時がかかるとしても、凄みがあり、かつ、面白い以上であり、考え込ませるのだ。大江氏の詩もある。「私は」ではなく「私ら」がポエムというよりは強い感性と思想の要として……。







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