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評者◆内堀弘
捨てない人たち――民の中から現れるとんでもない資料類
No.3144 ・ 2014年02月01日




■某月某日。世話になった人の法事で京都に出かけた。京都の冬は寒い。バスが百万遍の交差点を曲がると、西部講堂が見えた。冬枯れの街路樹の向こうに、瓦屋根のオリオンの星が過ぎる。あの佇まいは、けっして揶揄ではなく、赤軍派の靖国神社だ。これは文化ではなく風土なのかと思う。
 東京に戻ると、すぐに第一次資料を中心とした大きな入札会があった。市販された書籍や雑誌ではないもの。たとえば大正時代の船舶会社の社内資料であったり、昭和初頭の学園都市の設計図面、満州での反日運動の監視報告書や、戦前の民間人が撮影した大量の普通の写真。とにかく多彩なものが並ぶ。
 考えてみると、古書店の扱うものの大凡半分は、こうした書籍以外のもので占められている。それが途方もない量で残っているからだ。
 いま、こうしたものはデータで管理される。だが、ついこの前までは全て紙媒体で、デスクの周りや資料室や書斎に積み上げられていた。そしてマル秘や極秘なものほど廃棄もされず、何世代もただ長く放置され、それが何なのかわからなくなり、やがて他の資料と一緒に整理される。
 この日の入札会には帝国海軍の軍艦の図面がまとめて出品されていた。たとえば「呂号36号潜水艦完成図面」というのはそれだけで何十枚にもなる。「軍極秘」とか「××(民間会社名)軍極秘船」とかベタベタ押印されている。海軍の担当者の名前もある。
 軍の、それもかなり上位の機密だ。持ち出せば重罪になる時代があり、その特定秘密もやがて歴史史料となる。その役割が終わればコレクターズアイテムになり、そして誰の需要もなくなると紙屑になる。というのは、潜水艦ばかりでない。
 古書の現場には関ヶ原の合戦も西南戦争も大逆事件も太平洋戦争も連合赤軍も、同じようにその内部資料が現れる。捨てられない風土といえばそれまでだが、こんなものが、こんな時代まで、しかも官でなく民のなかに、これほど多く残っているのに驚く。そこに畏れがあるのだろう。それが風土なのか。
 古本屋の倉庫も、捨てられない(かといって値にもならない)もので溢れている。こちらは畏れではなく、いつか高くなるかもしれないという、捨てがたい欲なのだが。







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