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評者◆熊谷隆章(七五書店)
考えることを強く促す、しなやかなエッセイ集
日本語に生まれて――世界の本屋さんで考えたこと
中村和恵
No.3144 ・ 2014年02月01日




■最初に本書のタイトルを見たとき、ここ二・三年特に増えている「本屋本」(本屋について書いた本、もしくは本屋のひとが書いた本)のひとつだろうか、と思った。「本屋」「書店」と名のつくものに敏感すぎたのかもしれない。しかし、手にとって「はじめに」を読んでみると、その第一印象はいい意味で覆される。
 本書は、比較文学・比較文化研究者である著者が、雑誌『世界』に「世界の本屋さん」と題して連載したものをベースにしている。
 元々は、「在外研究中に訪れた国々の、本屋さんや図書館、出版事情や書き手の話を書くことで、さまざまなことばの文化のありかた、文学作品の一部や歴史の逸話などをお伝えできれば、とおもったにすぎなかった」(p.13)ようで、たしかにさまざまな「文化―ことば・文字―本・本屋」のラインをめぐる見聞が軽快に綴られており、ややリラックスした気分で興味深く読むことができる。
 しかし、読みすすめるとその趣は少しずつ変わっていく。「文化―ことば・文字―本・本屋」のラインをつないでいる「ひと」の存在が強く意識され、また、著者自身が「日本語」ということばとむすばれていることの意味を考えていく。三・一一の震災も影響している、と著者は率直に語る。『日本語に生まれて』というタイトルは、そのあたりをふまえて決まったようだ。
 本書で言及される国や地域、テーマは多岐にわたる。国や地域は、トンガ、ドミニカ島、マルティニーク島、マイソール、メルボルン、ロンドン、エストニア、マズウェル・ヒル。テーマは、本屋・文学・翻訳など出版事情に関するもののほかに、歴史や植民地政策、先住民のこと、そして三・一一を経たことで核や原発などについても言及される。「ことば」はそれらのテーマの下敷きであり、常に意識が向けられている。
 また、世界のさまざまな本屋が紹介されていくなかで、丁寧に作られた大量の日本語書籍が並んでいる日本の本屋の豊かな特異性、というものもあらためて強く感じることができる。
 著者は、「おわりに」でユーモアをにじませつつこう書いている。「あんまりお金のない暇な人間、人ごみ嫌いの偏屈君、あたまのねじをひとつふたつつけ間違ったらしい人、気持ちがぎゅっとむずかしく結び目になってしまっている人、そんな人間がいつも行くことのできる場所というのは、世界に必ず必要である。そういう場所がない社会は、きっと破綻する。」(p.221)
 そして、いつものように本屋を訪れる。目を凝らし、耳を澄ませる。
 一冊の本が持つ奥行きと、本屋という空間の懐の深さ、そしてその場所が面積以上に大きな広がりを持っていることに対する可能性。本屋は世界中のいろいろなところにあり、ひとや土地を映しながら、暮らしに寄り添いつづけている。
 ことばとは何か。ことばによって、知を、つながりを継承していくこととはどういうことなのか。考えることを強く促す、平易なことばで書かれた、しなやかで強靭なエッセイ集である。







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