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評者◆稲賀繁美
洋書と和書の棲み分けを廃止しよう――外国書の売り上げ落ち込みに日本の病理を探る──書店の現在を考える(3)
No.3117 ・ 2013年07月06日




 台北で繁盛している誠品書店の観察を続けたい。書籍の扱いに関して、日本との最大の違いは、外国書の扱いだろう。日本では大型店舗でも洋書は別扱いとされ、かつては丸善や紀伊國屋書店などで、魅力ある舶来区画をなしていた。だが現在では売れ行きの落ち込みもあって、洋書は書店の片隅や最上階に追いやられている。しかもそこには、最新流行やベストセラーやペイパーバックの棚積みを別にすれば、代わり映えのしない往年の書目が、申し訳のように並ぶだけ。ビジネスやPC関係の実用洋書を除けば、回転率は極めて低く、物置状態。さらに漢籍・ハングル書などは、大都会のその筋の専門店でしか扱っていない。
 ところがここ誠品書店では、洋書や和書が中国語の書籍と入り乱れ、同一主題の棚に平然として雑居して売れ行きを競い合っている。原書と翻訳書の併置は、それだけで知的な刺激となり、意外な発見をもたらす。早い話が、題名の翻訳の仕方や、表紙デザインの差違を見るだけでも、情報は倍加する以上に相互に増幅されて、視覚と頭脳に焼き付けられる。
 翻って日本では、もはや小売店で洋書は売れないという諦めがある。だが、売れるような環境を創る工夫もないまま、売り上げ低迷を理由に洋書売り場を縮小するのでは、将来展望は開けまい。文化的な鎖国と、海外情報への関心の低下は、危険な兆候ではないのか。
 洋書を含む外国書など、購入するのは所詮限られた数の専門家にすぎない、という前提が日本では厳として存在する。大学関係であれば、出入りの流通業者がキャンパスに御用聞きに訪れて、新刊研究書を売り込めば、そこで市場が閉じてしまう。またとかく学者は自分の専門領域に閉じこもり、その分野の最新成果ばかりを買い集め、視野狭窄に囚われがちだ。両者が悪循環を起こすと、結果的にはきわめて目配りの悪い閉鎖空間に閉塞する。大学図書蔵書の横断検索をしても、どこも似たり寄ったりの書目ばかりを蒐集している。欧米のちょっとした大学図書館の書庫や公共市民図書館に半日も籠もれば入手できる程度の情報が、日本の大学図書館情報網では、まったくヒットしないといった状況が発生する。
 公の研究費は別として、私費注文はグーグルなどで直接に海外から取り寄せるという向きも多い。だがこうした購入方法では、事前に標的とする書名や著者が限定されてしまう。自分の専門領域外で、未知の著者に遭遇する、などという体験は、オンライン注文ではそう簡単にはなしえまい。また北米などでも昨今の大学の教科書売り場では、授業で使う選定書目ばかりが売れて、それ以外への目配りは、頼りなくなる一方という印象を禁じえない。おそらく半分は、斯く申す筆者の知的な経年劣化ゆえだろう。主要な書き手が自分より年下になってもまだ、それら未知の著者の新著に興奮できるためには、かなりの知的容量が要求されるからだ。若い頃には新知識に貪欲でも、人はある年齢を過ぎると、青春の読書回想に埋没するという退行現象を起こしがちなものだ。だがそれにしても、と思う。
 かつての盲目的な舶来信仰への回帰ではない。海外への発信の意義を考えなおし、なにをinformすべきか見極めるためにも、ひとり英米語の最新流行には偏らない海外情報へと開かれた態度を、次の若い世代に涵養することの意義は、今日なお衰えてはならぬはずだ。
(国際日本文化研究センター研究員・総合研究大学院大学教授)







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