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評者◆稲賀繁美
なぜ台湾の誠品書店は元気がよいのか 日本の新刊書扱い大型書店に奮起を願う──書店の現在を考える(2)
No.3114 ・ 2013年06月15日




 誠品書店の本店を、久々に訪れた。設立して本年で24周年を迎えるという。ランドマーク・タワーのすぐ脇に位置した、台北随一の書店として有名である。24時間営業というのも、日本では考えにくいが、活気に溢れ、しかも洗練された店内を一巡するだけで、幾つもの驚きと発見とがある。それは翻ってみれば、日本の昨今の書籍情報流通が抱える問題を炙りだす。ひとことでいえば、一方には台湾島民の知的意欲が集約されており、他方顧みるに日本の文化的な凋落が強く印象付けられる。
 まず気がつくのは、大学生を初め、若者たちがこぞって書籍を購入する姿である。日本の場合どうだろう。書籍の売り上げの落ち込みに危機感を募らせる出版社や小売店が多い。だがそもそも若い購買層にどう対処するのかの基本的な発想において、すでに間違っているのではないか。もとより入手したい本が特定できるならば、インターネットで注文すれば、それで済む。
 となれば大書店の役割は、それとは別の利点に求められねばなるまい。店舗を訪れなければ見つからない未知の書籍は、世の中に膨大な数量、潜在する。それらの存在を来店者に的確に訴え、その知識欲を刺激し、購買意識に点火することが、顧客の確保には欠かせまい。こうした品揃えは、単独の出版社の目録では実現できない。インターネットでも類似の書名や関連書籍を購買者に連絡するシステムはある。だがそれだけでは、新たな領域の本を体系的に発見することには、限界があるだろう。誠信書店には、書物に無知な若者をも惹き付けるだけの魅力がある。だがそれは、軽薄な流行を狙って売れ筋のコミックばかりを棚積みし、ベストセラーの販売部数で収益を稼ごうといった安直な対応とは一線を画す。
 誠信の書棚は区画ごとに独立性がたかく、書店内の角を曲がるごとに、光景が一変する。ジャンルごと、テーマごとのメリハリがピリリと利いている。どうしたわけか日本の大型店舗の場合、似たり寄ったりの背表紙が、際限なく単調に、直線状に延長する。コンパクトなコーナーに関連図書が集中配架された場合と、ノッペラボウな本棚の羅列と。どちらが来店者の集中力を高め、まとめ買いの意欲をそそるかは、歴然としているだろう。
 これには流通過程の取り扱いも影響している。日本では哲・史・文などの分類区分が古色蒼然として墨守され、大分類で固定されているため、書籍の特定がむずかしい。かなり広い面積の書棚を舐めるように眺めても、必要な書籍が見つからない。ところが誠信書店では、1・5メートル幅ほどの本棚ごとに、自在なジャンル分けを設け、そこに関連する書物が集中的に配列され、分類そのものが終始、新陳代謝により刷新されている。流通業者の都合で設けた分類枠に依存したのでは、こうした書籍配列は無理だろう。専門知識をもった熱意ある店員が、コーナーごとに責任をもって配列に工夫すればこそ、書棚にも生気が宿る。うわべの経済的な販売効率や棚卸しの利便ばかりを優先すれば、書棚は生彩を失い、結局のところ店舗全体から、顧客を惹き付けるだけの魅力も失われてしまう。本来の任務を見つめなおし、表面的な販売部数落ち込み対策に追われぬだけの見識が、今求められている。
(国際日本文化研究センター研究員・総合研究大学院大学教授)







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