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評者◆前田和男
「新宣言」には「社会民主主義」の文言なし
No.2910 ・ 2009年03月21日




 「新宣言」には大きな欠陥があった。
 多くのマスコミは「新宣言」を「社会民主主義への転換」と記したが、実は「新宣言」には「社会民主主義」という言葉はひとつとして書き込まれていないのである。これを指摘したのは前社会党議員で当時北海道知事の横路孝弘だった。一方で党の規約には「社会主義革命をめざす」と記されたままで、この自己矛盾は、日本社会党が西欧の友党のように政権を担える国民政党への脱皮ができていないことを物語っていた。
 「新宣言」が採択された八六年の党大会で土井たか子委員長・山口鶴雄書記長体制となって、社会党の規約改正が課題となった。高木は協力を乞われて、四年後の九〇年四月の党大会で、規約の前文が全面改正される。“社会主義革命をめざす”の語句が削除され、それに代わって、「社会民主主義」の文言が次のように入れられたのである。
 「私たちは、社会主義の最も民主的な姿である社会民主主義を選択する。それは、科学技術の進歩と現代文明の果実を、議会制民主主義のもとですべての人が公正に享受し、福祉がくまなく行きわたる社会制度をめざす。」
 社会党の憲法というべき「新宣言」と党の規約が矛盾しているというのも社会党の「現実ボケ」を示しているが、高木にいわせると、社会党はさらなる「ボケ」を重ねる。
 規約の文言だけでは「社会民主主義の規定が曖昧」なので、理論センターで補強されることになったのである。そして、七月二六日付で「社会民主主義とは何か」と題する長文が「月刊社会党」一九九〇年九月号(第四一九号)に発表される。高木もこの作業には加わったが、最終的な文章には批判的だった。
 執筆の中心は、「新宣言」の助言・草案作成仲間の一人である福田豊(法政大学教授)だったが、最終文書を読んだ高木は、大先輩の福田をこう批判したという。「これは社会民主主義へのスターリン主義的転換ではないか」。そもそも社会民主主義は「これこれこういうものである」という規定にはなじまない。社会民主主義とはさまざまな要素がまじりあった現実的なものであり、多様な取り組みのなかで具体的に実現されていくものという強い思いがあったからだ。ここには「道」の残滓が払拭されておらず、社会党の体質改善が不十分なままである証拠が示されていた。高木にいわせれば、かつて金科玉条にしていたソ連型社会主義を社会民主主義にかえただけともいえた。
 「新宣言」をめぐる紆余曲折を、高木は、感懐をもってこう振り返る。
 「新宣言」の草案づくりにかかわった当時の高木には、人びとにとっては「川の向こうの千年王国」ではなく、こちらの岸での生活が重要だという強い思いがあり、たしかに社会民主主義なる文言はなかったが、その精神は新宣言の中に書きこまれ最後まで残った。横路による指摘はそのとおりだが、内容的には「新宣言」は社会民主主義の宣言であるという思いが今もある。また、「新宣言」づくりは共同作業でやったものであり、批判も生産的な批判であって、けっして孤独ではなかったという。
 それにしても、「道」から「新宣言」、そして規約改正にまで十年以上もかけたことは、いかに社会党が浮き世離れしていたか、戦後政治を変えることにいかにセンスと情熱をもちあわせていなかったかを物語っていた。これが政界再編を遅らせた一因でもあった。それでもソ連崩壊前に「新宣言」が間に合ったのは社会党にとって幸いだった。もし党内の左右対立であと三年のびていたら、ソ連型社会主義革命を拠り所とする「道」が綱領的文書として君臨したままであり、ベルリンの壁とソ連の崩壊によって社会党は壊滅的打撃をうけていたことだろう。

●土井ブームとニューウエーブの会

 さて、「新宣言」によって不十分ながらも社会民主主義へ「体質改善」をはかろうとしたとき、社会党は初の女性党首、土井たか子を委員長に据えて、「マドンナ旋風」を巻き起こす。
 八九年七月の参院選挙では、「消費税」「リクルート事件」「首相のスキャンダル」の三重苦を背負う自民党の大敗となった。片や社会党は、自民三八議席に対して五二議席、「連合候補」を加えると社会党系は六三議席と大躍進。うち女性候補が二二人も当選、党首のおたかさん効果とあいまって、マドンナ旋風と呼ばれた。
 土井ブームは翌九〇年二月の衆院選挙にも引き継がれ、前回の八六議席という戦後最低の落ち込みを一三九議席へV字回復させた。注目すべきは量的躍進より質的躍進にあった。従来の「組合幹部のいっちょ上がり」ではない、市民派の若手が大量に当選したのである。職業も弁護士、大学教授、マスコミ出身者、医者、市民運動家など顔ぶれは多士済々。そのうちの二、三十人ほどが「ニューウエーブの会」を結成して、いきなり社会党の中に新しい波を起こす。マスコミはこれを「社会党の新人類によるペレストロイカ」と大いにもてはやした。
 高木が新宣言に託した「連合政権」の仕掛けは、試金石とされた直近の選挙では失敗したと記したが、効果がでるにはなにがしかのタイムラグが必要だったのかもしれない。やはり社会党が「新宣言」ではなく、「道」にしばられていたら、ニューウエーブの会のような柔軟な発想の議員が大量に当選することもなかったろう。
 このまたとない追風の中で高木はまたぞろ仕掛けを試みる。
 ニューウエーブの会の「結成趣旨」は、「社会民主主義の確立と社会党の政権政党への脱皮」であった。その問題意識から同会では、なにをおいても社会党の新しい「憲法」である「新宣言」の早朝勉強会が企画提案され、コーディネータ役の要請をうけた高木は、言下に引き受けたのである。依頼してきたのは仙谷由人だった。
(文中敬称略)







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